新入社員のモチベーションを高め、満足度を向上させることは、企業の長期的な成長に欠かせないのではないでしょうか?
モチベーション理論を理解し、実践することは新入社員の組織への貢献度を高め、定着率を向上させるための重要な鍵となるでしょう。
そこで、本コラムでは、新入社員向けに有効かモチベーション理論とその活用法を紹介したいと思います。
新人が入ってきたら教えてあげたいモチベーション理論5選
①自己決定理論(Self-Determination Theory)
自己決定理論(Self-determination theory(SDT))とは、1985年にアメリカの心理学者であるエドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)が提唱した動機づけ理論のことです。
私たちのやる気を引き出すいわゆるモチベーション(動機付け)は、自分が意思を決めた大きさや程度(自己決定)が大きければ大きいほど、モチベーションは高くなるという理論です。自ら考えて決めた自己決定は、内発的な動機付けとも言われが、自律的で、やり抜く意思が強固になります。一方、自分自身で動機付けがなかったり、自分ではない第三者などの外から言われて決めたりしたことは、外発的な動機付けとも言われ、自己決定よりも意思が弱くなりやすいです。
新入社員のモチベーションを高めるためには「自己決定理論」を活用することが大切です。 個人個人が自分自身の意思決定に関与し、自己決定を感じることが大切ですし、新入社員には、仕事に関する意思決定の機会を与え、自己決定を奨励しましょう。例えば、業務での裁量やプロジェクトへの参加、キャリアの方向性についての選択肢を提供することなど、自分自身の意思で決定させることが大切です。
②ポジティブ心理学(Positive Psychology)
ポジティブ心理学は、1998年当時、米国心理学会会長であったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって発議、創設されたものです。その後、セリグマン博士と共に発起人として関わった、米国を中心とする第一線の心理学者たちによって分野の方向性が形成され、研究が推進されてきたそうです。
ポジティブ心理学は、人々が幸せで充実した生活を送るための心理学の分野です。ポジティブ心理学は心の健康や幸福感を向上させる要因に焦点を当ており、感謝、楽観主義、ストレングス(個人の良い特性や資質)、幸福感、意味と目的を研究し、個人の精神的な健康を高める方法を提供します。
新入社員の幸福感を向上させ、モチベーションを高めるためにはポジティブ心理学は有効です。 ポジティブ心理学は、個人の強みを発見し、それを活用することを強調しています。新入社員には、自分の強みを認識し、それを活かせる機会を提供し、楽観主義を促進しましょう。強みを活かすことで、新入社員は仕事に対する意欲を高めることができます。
③褒賞と認知
褒賞と認知に関するモチベーション理論は、個人のモチベーションや行動における報酬や認知の役割に焦点を当てる理論といわれています。
・報酬(Rewards)
報酬は、個人に提供される利益やポジティブな刺激を指します。報酬は、物理的な報酬(給与、ボーナス、ギフト)、心理的な報酬(認知、承認、賞賛)、内的な報酬(楽しさ、充実感、達成感)など、さまざまな形で表れることがあります。
・認知(Recognition)
認知は、個人が自分の努力や達成を認識されることを指します。認知は、個人の自尊心や自己評価を高め、モチベーションを促進する要因となります。認知は賞賛、感謝、フィードバック、表彰などの形で示されることがあります。
・期待(Expectancy)
期待は、個人が特定の行動が報酬につながるかどうかについての信念を指します。個人が報酬を期待すると、その行動にモチベーションを高める影響があります。期待が高ければ高いほど、行動に対するモチベーションも高まります。
・選好(Preference)
選好は、個人が特定の報酬を他の報酬よりも好む傾向を指します。人々は異なる報酬に対して異なる選好を持ちます。モチベーション理論では、個人の選好に合った報酬を提供することが重要とされます。
この理論は良く言われる「早馬の前にニンジンをぶら下げる」ようなイメージでしょうか? 新入社員の努力と成果を適切に認め、褒賞をあげてみるのは効果的です。褒賞は、モチベーションを高める効果的なツールですし、新入社員が目標を達成したり、特定の成果を上げたりした場合に、認知や報酬を通じてその成果を称えましょう。
④緊張系(Tension-Based)モチベーション理論
緊張系のモチベーション理論は緊張系とは、自身へのプレッシャーを糧にしてモチベートされるものです。 うまくできないかもという緊張感、ズレ、未達成感、ハングリー精神、危機感、などといったものから生じる、「自分はまだまだだ」といういい意味での緊張から生じるモチベーションと言えるでしょう。この理論では、個人が達成感や報酬を得る過程で生じる精神的なプレッシャーや外的なプレッシャーを感じることがモチベーションを高めると言われています。
例えば、スポーツの世界では、選手は競技イベントに向けて練習し、競技中に緊張やプレッシャーを感じながらも、勝利を目指して高いモチベーションを維持しているでしょう。緊張系モチベーションは、目標達成へのストレスやプレッシャーを通じて、個人を行動意欲を駆り立てるものです。
⑤希望系(Hope-Based)モチベーション理論
希望系のモチベーション理論は、シャイネ・スナイダー(Shane J. Lopez)やC・R・スナイダー(C. R. Snyder)らによって研究されてきました。スナイダーらは希望(hope)を重要な要素として、達成可能な目標設定とモチベーションに関する研究を行い、希望系モチベーション理論を発展させたのです。
希望系とは、目指す方向に向いたいという気持ちから生じるモチベーションです。 夢、希望、目標、使命、ロマン、なりたい姿、楽しみ、あこがれ、達成感、自己実現、成長感、やりがい、といったものが挙げられます。自身の内側から内発的に生じるものばかりではなく、外発的に誘因されるものです。
希望系モチベーション理論は、希望感と楽観主義が個人のモチベーションに与える影響に焦点を当てているのです。
希望系のモチベーション理論は、個人が達成可能な目標や望ましい未来を持つことがモチベーションを高めるという考え方です。これによれば、人は目標を設定し、それに向かって進むことで希望や楽観的な考えを養うことができ、その結果、モチベーションが向上していくのです。希望系モチベーションは、成功への信念と達成感を通じて個人を行動に駆り立てます。
例えば、個人が将来のキャリア目標を設定し、その目標に向かって進むことで、希望系のモチベーションが高まり、成果を上げやすくなります。
緊張系と希望系のモチベーション理論は、個人のモチベーションを理解し、適切なサポートと環境を提供するために役立ちます。組織や個人がどちらの理論により適した方法でモチベーションを引き出すかを考慮することが、成功への鍵となります。
これらのモチベーション理論は、組織が従業員の多様なニーズと好みに合った戦略を開発し、モチベーションを向上させるためのツールとして活用できます。従業員の個別の要求や組織の文化に合わせてこれらの理論を組み合わせ、最適なアプローチを見つけることが重要です。
まとめ
今回は、新人が入ってきたら教えてあげたいモチベーション理論をご紹介してきました。 最新のモチベーション理論を理解し、組織内で活用することは、従業員のモチベーションを向上させ、組織全体の成功につながるでしょう。自己決定理論、ポジティブ心理学、緊張系、希望系などのアプローチを組み合わせ、個々の組織に合ったモチベーションアップにつなげることができます。ぜひこういったモチベーション理論を参考に新人へのフォローアップに活かしてみてください。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。