社会人生活をスタートさせた新入社員は、職場で様々な困難に直面します。その中でも特に頻出する「お悩みランキング」を今回のコラムではご紹介していきたいと思います。新入社員を受け入れる企業が新入社員を支援するための施策を考えるうえで参考になると思います。
新入社員のお悩みランキング
1位 職場の人間関係
多くの新入社員が「上司や同僚との関係性構築」に難しさを感じています。例えば、初めてのランチタイムで「誰と一緒に行けば良いのか分からず、孤立してしまう」というエピソードがよく挙げられます。また、「上司が具体的な指示を出してくれないため、何をすれば良いのか分からない」という声も。
2位 仕事のミスやプレッシャー
新入社員の中には、業務未経験による不安が常につきまといます。「大事な会議で資料を配るタイミングを間違えてしまった」「提出期限を過ぎたことに気づかず、上司に怒られた」など、些細なミスでもプレッシャーを感じやすい傾向があります。
3位 残業や業務量の調整
働き方改革が進む一方で、「締め切りが重なり、時間内に終わらない」「残業を減らしたいが、仕事が多すぎる」といった声は根強いです。特に、「他の社員に迷惑をかけないよう、自分だけで抱え込んでしまう」というケースが見られます。
4位 業務内容が難しいと感じる
新入社員にとって初めての業務は、常に挑戦の連続です。「専門用語が多すぎて何を言っているのか分からない」「顧客対応で聞かれた質問に答えられず、恥ずかしい思いをした」など、自信を失う瞬間も少なくありません。
5位 社会人としてのマナーやルールへの不安
社会人としての基本的なマナーを学ぶ機会が少ないまま入社した人も多くいます。「名刺交換の仕方が分からず、相手を困らせてしまった」「会議中の発言タイミングがつかめない」といった悩みが挙げられます。
なぜ新入社員は悩みを抱えやすいのか?
新入社員が抱える悩みの背景には、次のような要因があります。 1. 環境の変化
学生時代と社会人生活の間には、ライフスタイルのギャップが大きく存在します。例えば、大学生時代は自由な時間が多く、自分のペースで課題や活動を行えました。一方で、社会人生活は出勤時間が決まっており、職場での協力や責任が求められるため、ストレスを感じやすくなります。 大学時代は午後まで寝ていても問題ありませんでしたが、社会人になると朝早く起きて満員電車で通勤し、1日中働く生活に慣れる必要があります。この変化により、体力面や精神面での負担が増します。 2. 期待と現実のギャップ
新入社員の中には「自分がやりがいのある仕事に携わりたい」と高い期待を抱いている人が多いです。しかし、入社直後は基礎業務や雑務が中心となり、「こんなはずじゃなかった」と感じるケースも少なくありません。 仮にデザイナー志望で入社した新入社員が、最初の数か月間はデザイン業務ではなく、資料整理やコピー作業に追われるという状況が発生すると、モチベーションが下がることがあります。 3. 経験不足
新入社員は、職場で求められるスキルや知識をまだ持っていないため、業務に対する自信を持ちにくいです。たとえば、「議事録を作成する」というシンプルなタスクでも、どの程度の詳細さが求められるのかが分からないため、不安が募りやすくなるのです。
お悩みランキングが注目される背景は?
新入社員のお悩みランキングが注目される背景には、現代の社会的・経済的な変化や職場環境の多様化が大きく関係しています。これらのランキングは、ただの興味深い統計データではなく、企業が人材育成や組織運営において直面する課題を浮き彫りにする重要な指標となっています。以下に、その背景を詳しく考察します。 1. 若手社員の早期離職問題の深刻化 近年、新入社員の離職率は依然として高い水準にあり、厚生労働省の調査によれば、新卒社員の約30%が3年以内に離職しています。このような高い離職率は、企業にとって人材育成のリソース不足や組織力の低下を招く深刻な問題です。 新入社員が抱える課題をランキング形式で可視化することで、企業が離職原因をより具体的に理解し、早期対策を講じるためのヒントを得ることができます。例えば、「人間関係」が1位の場合、メンター制度の導入やコミュニケーション研修を検討するなどの対応策が考えられるからです。 2. Z世代の価値観や働き方の多様化
新入社員の多くを占めるZ世代(1990年代後半~2010年代初頭生まれ)は、個人の価値観や多様性を重視する傾向があります。この世代は「やりがい」や「成長」を求める一方で、過度なストレスや非効率的な職場環境には敏感です。また、デジタルネイティブ世代であり、効率性や明確なフィードバックを求める傾向があるとされています。 ランキングを通じて、Z世代がどのような悩みを持っているかを知ることは、企業がこの世代に適した働き方改革や支援策を設計する上で欠かせません。例えば、「残業や業務量の調整」がランキング上位であれば、タイムマネジメントのサポートやフレックスタイム制の導入が有効です。 3. ダイバーシティ(多様性)の進展による職場環境の複雑化
職場における多様性が進む中で、新入社員の価値観や背景も多様化しています。例えば、海外留学経験を持つ社員、子育て中の新入社員、障害を持つ社員など、様々な状況に対応する必要があります。このような多様性は組織に活力をもたらす一方で、コミュニケーションやサポートの難易度を高めています。 ランキングを分析することで、多様な社員が直面する共通の課題と個別の課題を整理できます。「職場の人間関係」が上位に来る場合、文化的背景の違いや価値観の相違が原因かもしれません。このような情報は、ダイバーシティ推進の具体的な方針づくりに役立ちます。 4. 働き方改革と業務効率化の要請
日本では「働き方改革」が進み、残業削減や効率的な業務プロセスが求められるようになりました。しかし、その一方で、新入社員には限られた時間の中で成果を求められるというプレッシャーが増しています。「仕事のミスやプレッシャー」がランキング上位に挙がるのは、こうした背景が影響していると考えられます。 ランキングを通じて、働き方改革が新入社員にどのような影響を与えているのかを把握することで、業務負荷を適切に調整し、職場環境の改善につなげることが可能です。例えば、業務プロセスを見直し、個々の社員が抱えるタスクの効率化を図る取り組みが必要です。 5. 心理的安全性の重視
近年、Googleの研究などで「心理的安全性」が注目されています。心理的安全性とは、社員が「ミスをしても責められない」「意見を自由に言える」と感じられる環境のことを指します。新入社員が安心して働ける環境を作るためには、彼らが何に不安を感じ、何にストレスを抱えているのかを知ることが重要です。 ランキングは、心理的安全性を脅かす要因を特定する手段となります。「人間関係の悩み」や「仕事のミス」が上位にある場合、ミスを許容する文化や、円滑なコミュニケーションを促進する仕組みを取り入れる必要性が見えてきます。 新入社員のお悩みランキングが注目される背景には、離職率の低下、Z世代への対応、多様性の受容、働き方改革、心理的安全性の重視といった社会的・経済的要因が深く関わっています。このランキングを活用することで、企業はより良い職場環境の構築や人材育成の改善を図り、社員一人ひとりが活躍できる環境を提供することができるはずです。
お悩みランキングは、単なる傾向分析にとどまらず、未来の働き方や組織運営の方向性を示すコンパスと言えるでしょう。 本日はここまでとして、次のコラムでお悩みランキングベスト5をご紹介していきたい音もいます。
【執筆者情報】
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。