組織(企業、チーム)運営を行う上で、どんな組織が理想でしょうか?
・トップダウンで、上からの指示命令を忠実にこなす組織?
・ボトムアップで、どんどん改善点や修正点を上に提言、提案できる組織?
いろいろな組織の状態があると思いますが、みなさんの考える理想の組織の状態はどういった状態でしょうか?
組織づくり、組織開発のアプローチとして有名な理論の1つである「学習する組織」というものがあります。
今回は、その学習する組織についてご紹介したいと思います。
学習する組織とは
「学習する組織」とは、システム思考を基盤としながら、個人とチームが効果的に変化をつくりだす力を継続的に組織開発することで、1970年代にハーバード大学教授のクリス・アージリスとドナルド・シェーンが最初に提唱しました。その後、「学習する組織」をピーター・センゲが世に広めました。
※ピーター・センゲは、マサチューセッツ工科大学の上級講師であり、SoL(Society for organization Learning)の創設者です。
アージリスラらは、「学習する組織」は次のように定義しています。
組織というのは、なにかしらの目標や目的を達成するための集団です。 学習する組織とは、目的に向けて効果的に行動するために集団としての「意識」と「能力」を 継続的に高め、伸ばし続ける組織なのです。
学習する組織のチームでは、すべてのメンバーが自律性と協調性を持ち、環境に適応する強さと将来の変化に対応する柔軟性を理解し実践することにより、組織全体が学習する能力を備えているとされています。
センゲ氏の学習する組織を邦訳し、長年、学習する組織を研究している小田理一郎氏によると、
「学習する組織」の特徴は、変わりゆく事業環境の中で、急激な変化にも耐え回復する「しなやかさ」、環境に迅速に適応する「適応性」、そして自ら学び、創造し、デザインし、進化する「自己組織化」することにあります。こうした能力を組織が身につけることによって、長期にわたって持続的にパフォーマンスを出しつづけることができます。
従来の人事・組織戦略は、戦略、業務構造、組織の制度などのハードの側面に注力しがちですが、その成否を決めるのはソフトの側面である人材、対人関係、職場の規範、組織風土やその相互作用としての組織プロセスであることがしばしばです。その組織プロセスに、 組織の健全性と有効性を高めるための一連の働きかけが組織開発です。40年以上の歴史の中で組織の特性や状況、時代の要請にあわせて進化し、さまざまなアプローチが提唱されてきました。
数ある組織開発のアプローチの中でも企業や国際機関の経営者にひときわ脚光を浴びたのがMIT上級講師のピーター・センゲが提唱した「学習する組織」です。学習する組織は、人の成長と組織の発展の好循環を生み出す組織です。
と解説しています。
今の移り変わり(スピード)の速さや多様化、複雑化している世の中では、個々が自律し、組織全体が成長し続けることが大切なのです。
学習する組織の特徴
学習する組織の特徴としては、以下のような点が挙げられます。
共有ビジョン
学習する組織では、組織全体が共有するビジョンや目標が存在します。これにより、メンバーは個別の目標だけでなく、組織の目標に向かって学習することが促されます。
チーム学習
学習する組織では、個々のメンバーが協力し、情報や知識を共有することが重視されます。チームが一緒に学び、問題を解決し、新たなアイデアを生み出すことで、組織全体の学習と成長が促進されます。
システム思考
学習する組織では、単なる個別の要素や部門だけでなく、組織全体のシステムを捉えることが重要視されます。組織内の相互関係や相互作用を理解し、全体最適を追求することで、組織の学習と改善が可能となります。
自己マスタリー(個人の成長と開発)
学習する組織では、メンバーの個人的な成長と能力開発が重視されます。組織は、メンバーの学習と成長を支援し、自己啓発を促進する仕組みを整えます。
メンタルモデル
メンタルモデルは、組織や社員個人が持っている潜在的な固定イメージのことを指します。本人の無意識下で行われる行動があり、本人も認識していないうちにイメージに沿って行動していると言われています。個人の強固な思い込みを強く認識して変化・改善させることによって組織改革などが進みやすくなります。
フィードバックと反省
学習する組織では、定期的なフィードバックと反省が行われます。組織は過去の結果や行動を振り返り、失敗や成功から学び、改善策を見つけ出すことに努めます。
引用:ピーター・センゲ「学習する組織」
学習する組織は、変化の激しい環境において競争力を維持し、持続的な成長を達成するための重要な概念です。組織のリーダーシップや文化の変革、学習の促進のための組織的な取り組みが求められるのです。
学習する組織を作るための5つのポイント
学習する組織をつくるためにはどういった取り組みが必要なのでしょうか? 学習する組織を作るためには大きく5つのポイントが存在します。
共有ビジョンの作成
リーダーが一つの明確な目標やビジョンを提示し、それを全てのメンバーと共有します。それにより、チーム全体が一緒に向かうべき方向が明確になります。例えば、”5年以内に業界トップになる”というビジョンを設定し、そのためには何が必要かをチーム全体で考え、それを達成するための戦略を共有します。
オープンなコミュニケーションの推奨
ミーティングやワークショップなどで、自由に意見を出し合える場を作ります。また、失敗を責めるのではなく、失敗から学び改善することを奨励します。これにより、問題が隠されることなく、解決策が見つけやすくなります。
チーム学習の機会を作る
定期的にチーム全体で学ぶ時間を設け、新しい知識やスキルを共有します。それは専門家を招いて講演をしてもらう、または、メンバーが自分たちが最近学んだことを他の人と共有するセッションを行うなど、様々な形で行うことができます。 マスタリーの奨励: メンバーそれぞれが専門分野のスキルを向上させるための教育やトレーニングを提供します。また、それぞれのメンバーが自分自身の成長を目指し、自分の強みや興味を活かすことを奨励します。
システム思考の導入
問題が発生した際に、その問題だけを単体で考えるのではなく、全体の中でどう影響しているか、根本的な原因は何かを探るように指導します。これにより、一時的な解決策ではなく、長期的に効果的な改善策を見つけることが可能になります。
これらの要素を組織全体で推進し、学習を持続的なプロセスとして組織に根付かせることが、学習する組織を目指す上で重要です。
今回は学習する組織の作り方についてご紹介してきました。 学習する組織は、組織全体が成長し、継続的に改善を図るためにとても重要です。これは問題解決能力を向上させ、社内での革新を促進し、競争力を維持することにつながります。また、従業員の満足度とエンゲージメントを高め、組織の長期的な成果につながっていくのです。
VUCA時代と呼ばれるいまこそ、学習する組織がチームづくりのヒントになると思います。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。