
クライシスマネジメントとは何か?
クライシスマネジメント(危機管理)**とは、企業が不測の事態に直面したとき、損害を最小限に抑え、組織の存続を守るための行動体系です。 似た言葉に「リスクマネジメント」がありますが、こちらは主に「リスクを予防・回避する活動」です。一方、クライシスマネジメントは、危機が実際に発生した“その瞬間”からの行動に焦点を当てます。 特に現代は、SNSやメディアの影響により、1時間の初動ミスが企業ブランドに致命傷を与える時代です。経営層だけでなく、現場の社員一人ひとりが「危機対応」の意識を持つことが不可欠です。
危機管理の6ステップ
Step① 危機の予兆の把握(リスク認識)
危機は、ある日突然起こるのではなく、予兆や兆候として現れることが多くあります。
例えば、 •顧客からの同様のクレームが続く
•社内で小さなトラブルが増える
•一部の従業員が急に退職・異動を申し出る
•SNSで製品や対応に関する不満が出始める こうした「小さな異変」に敏感に気づくことが、危機の芽を摘む第一歩です。重要なのは、現場の声が経営層まで届く仕組みがあるかどうか。
■ 実践アクション
・月次で苦情・事故・ヒヤリハット報告を一覧化
・「社内ホットライン」や匿名通報窓口を設置
・「異変に気づいたら30分以内に上司に報告」の習慣化
・月次で苦情・事故・ヒヤリハット報告を一覧化
・「社内ホットライン」や匿名通報窓口を設置
・「異変に気づいたら30分以内に上司に報告」の習慣化

Step② 危機の分析と評価
予兆やリスク情報を得たら、それがどれほど深刻か、どの程度起こり得るかを冷静に分析します。 このとき活用したいのが「リスクマトリクス(発生頻度 × 影響度)」です。
影響:大 | 影響:中 | 影響:小 | |
頻度:高 | 優先対応 | 重要監視 | 継続監視 |
頻度:中 | 優先検討 | 通常対応 | 注意 |
頻度:低 | 検討対象 | 要経過観察 | 無視可能 |
■ 実践アクション
・リスク評価シートの作成(ExcelでOK)
・CFO・法務・人事・現場責任者との定期的リスク共有会議
・3ヵ月に一度のリスクレビューで優先順位を更新
・リスク評価シートの作成(ExcelでOK)
・CFO・法務・人事・現場責任者との定期的リスク共有会議
・3ヵ月に一度のリスクレビューで優先順位を更新
Step ③ 危機管理体制の整備
危機が起きたとき、誰が何を判断し、どう動くのかが明確になっていなければ、現場は混乱します。 そのためには、「危機管理体制の事前構築」が必要です。 •経営層が主導する「危機対策本部(CMT)」の設置
•部署ごとの役割・責任分担表の作成
•連絡網、初動対応マニュアル、発令基準の明文化 また、これらは“作っただけ”では意味がありません。
年に1~2回は、模擬訓練(ケースシナリオ訓練)を行い、「実際に動けるか?」を検証しましょう。
■ 実践アクション
・マニュアルを「誰が読んでも動ける言葉」で書く
・安否確認システムや社内チャットツールの緊急利用ルールを整備
・1年に1度、社外講師を呼んで危機対応ワークショップを実施
・マニュアルを「誰が読んでも動ける言葉」で書く
・安否確認システムや社内チャットツールの緊急利用ルールを整備
・1年に1度、社外講師を呼んで危機対応ワークショップを実施

Step④ 危機発生時の初動対応
危機が発生したとき、最も重要なのはスピードと冷静な判断です。
初動対応を誤ると、被害が拡大し、取り返しのつかない状況に陥ります。 ■ 例:情報漏洩の場合の初動
・漏洩の事実確認(誰が、いつ、どの情報を、どの経路で)
・被害範囲の調査(件数・対象者)
・該当システムへのアクセス遮断
・社内CMTへの緊急報告と判断指示 災害、事故、システム障害など、危機の種類によって対応は異なりますが、どの場合でも「初期の事実確認」「関係部門との連携」「記録の残存」が基本です。 また、初動対応で「責任回避や情報隠蔽」が見られると、危機は企業の存続に関わるほど深刻になります。
■ 実践アクション
・「30分以内に現場→本部への連絡」ができる体制
・全社員が知っている社内緊急連絡チャネルの整備(チャット、メール、電話)
・「緊急時チェックリスト」(やるべき初動行動を3つに絞ったシート)の全社配布
・「30分以内に現場→本部への連絡」ができる体制
・全社員が知っている社内緊急連絡チャネルの整備(チャット、メール、電話)
・「緊急時チェックリスト」(やるべき初動行動を3つに絞ったシート)の全社配布
Step⑤ 情報の開示とステークホルダー対応
危機の発生時には、顧客、取引先、株主、メディア、社員といった多くの利害関係者(ステークホルダー)への情報開示が不可欠です。 ポイントは、誠実・迅速・透明な対応です。 ■ 失敗例:某大手企業のリコール隠し
・発覚から1ヵ月以上公表が遅れた
・対応の遅さと説明不足で信頼を大きく失い、株価が急落
・マスコミ・SNSで批判が過熱し、最終的に経営トップが引責辞任 逆に、危機時に「すぐに現状を説明し、誠実に対応した」ことで評価を高めた企業もあります。
■ 実践アクション
・社外向けには「事実確認中」でも一次発信をする
・社内向けにも情報格差を生まない(社員が外部から知ることがないように)
・定型フォーマット:「発生日時・原因・対応状況・今後の対応」+謝罪文言
また、記者会見やメディア対応を見越して、広報担当者のメディアトレーニングも定期的に行うと良いでしょう。
・社外向けには「事実確認中」でも一次発信をする
・社内向けにも情報格差を生まない(社員が外部から知ることがないように)
・定型フォーマット:「発生日時・原因・対応状況・今後の対応」+謝罪文言

Step⑥ 事後対応と再発防止策の策定
危機が一段落した後も、企業にとって本当の「勝負」はここからです。
再発防止策を打たずに収束を急ぐと、同じ危機が繰り返されるリスクがあります。 ■ 事例:顧客情報のUSB紛失
・原因調査で、セキュリティルールが周知されていなかったことが判明
・再発防止策として、USB使用を全面禁止、社員全員に再教育を実施
・さらに情報漏洩リスク管理ポリシーを社外に公表 このように、危機の原因を構造的に掘り下げ、組織として仕組みを見直すことが不可欠です。
■ 実践アクション
・「事後レビュー会議」を開催(関係部署を横断的に)
・お詫びや補償が必要な関係者には、誠意ある対応を徹底
・再発防止策を社内で共有し、マニュアル・教育・組織体制を更新
・「事後レビュー会議」を開催(関係部署を横断的に)
・お詫びや補償が必要な関係者には、誠意ある対応を徹底
・再発防止策を社内で共有し、マニュアル・教育・組織体制を更新
危機対応に失敗した企業の実例と教訓
多くの企業危機は、初動対応を誤ったがために「本来は回避可能だった損害」が拡大し、企業全体の信頼やブランド価値を大きく損なう結果を招いています。 下記に示すのは、過去に報道などで問題となった企業危機対応の典型的失敗パターンです。 こうした企業危機の共通点は、「発生した事象」よりも「対応そのもの」が非難されたということです。特に、対応が遅れたり、組織としての誠実さが感じられなかった場合、たとえ本来の問題が軽微であっても、社会的評価は一気にマイナスに振れる傾向があります。
失敗の本質 | よくある行動 | 実例・背景 |
情報の軽視 | 「まだ公表しなくていいだろう」「様子を見よう」 | 食品メーカーが異物混入の内部通報を受けたが、販売停止を数週間遅らせ、SNSで情報が拡散。結果として、対応の遅れに批判が集中し、大量返品と売上低下を招いた。 |
組織の縦割り | 「これは広報の仕事」「現場で判断して」 | 製造ラインの事故に関して、現場は工場長、情報発信は広報部、対応判断は経営企画という分断構造により、誰も迅速な決断ができず混乱。対応がバラバラでメディア批判を浴びる。 |
誠実さの欠如 | 「謝罪=敗北」「沈黙が得策」 | データ改ざん問題に関して、社長が記者会見で「一部の担当者の暴走」として組織ぐるみの責任を否定。後に追加資料が発覚し、ウソをついた印象で二次炎上。取引停止、株価暴落へ。 |
🔍 教訓として押さえておきたい3つの原則
1.「最悪を前提に準備する」:軽微な問題こそ、リスクを最大化して想定し、速やかに対応する。
2.「責任の所在よりも信頼の維持を優先する」:誰のミスかより、どうリカバリーするかに集中する姿勢が求められる。
3.「謝罪のタイミングが命」:間違いやトラブルが明確になった時点で、いかに早く頭を下げられるかで命運が分かれる。
1.「最悪を前提に準備する」:軽微な問題こそ、リスクを最大化して想定し、速やかに対応する。
2.「責任の所在よりも信頼の維持を優先する」:誰のミスかより、どうリカバリーするかに集中する姿勢が求められる。
3.「謝罪のタイミングが命」:間違いやトラブルが明確になった時点で、いかに早く頭を下げられるかで命運が分かれる。

危機を“成長のチャンス”に変える視点
一方で、危機を経験した企業の中には、それをバネにして組織を飛躍的に成長させた事例も存在します。こうした企業は、危機を一時的な損失として片づけるのではなく、「この危機から何を学ぶか」に焦点を当て、構造的な見直しを進めています。 ■ 例:ある製造業の製品事故を契機に
・開発〜出荷〜営業までのプロセスを全面見直し
・部門間連携を強化し、営業からのフィードバックを即開発に反映
・「現場での判断力と報告力」が評価基準に加わる このように、危機は「弱点が浮き彫りになる瞬間」でもあり、組織を強くするきっかけにもなります。 危機管理とは、「危機を防ぐ」だけでなく、「危機に学ぶ」ことでもあります。 そしてその姿勢こそが、社員の意識を高め、顧客の信頼を取り戻し、企業の価値を高める最大の原動力になるのです。
まとめ
本コラムを通じて見てきたように、クライシスマネジメント(危機管理)は、単なるマニュアル対応ではありません。 それは、「どんな非常事態においても組織として判断し、行動し、信頼を守り抜く」ための経営の中核的な能力です。 企業にとっての危機とは、自然災害、製品トラブル、情報漏洩、SNS炎上、労務問題、内部不正など多岐にわたります。しかもそれらは、いつどこで起こるかを完全に予測することは不可能です。 だからこそ、重要なのは以下のような“平時からの備え”なのでしょう。 ✓現場の異変や兆候を拾い上げる社内情報網の強化
✓いざというときに動ける危機対応マニュアルと訓練
✓全社を巻き込んだCMT(危機対策本部)の設計
✓誠実・迅速・透明な情報開示と説明責任の体制
✓危機後の組織的な振り返りと再発防止の仕組み また、最も大切なのは、経営トップや管理職が危機を“他人事”とせず、“自分ごと”として捉えることです。 危機時の経営者の判断と言葉は、社員・顧客・社会に対する「企業の人格そのもの」と見なされます。 さらに、危機を乗り越えた企業の多くが、その経験を通じて、 ・より強固なチーム体制
・組織の透明性
・社員一人ひとりの当事者意識 を育て、結果的に企業文化そのものを進化させています。 つまり、危機対応とは、単なるダメージコントロールではなく、組織を次のステージへ導く成長の契機でもあるのです。 今あなたの会社では、どこまでクライシスマネジメントが整っているでしょうか? 「問題が起きてから考える」のではなく、「起きる前に動く」ことが、明日への安心と信頼をつくっていくはずです。ぜひ検討してみてください。
【執筆者情報】
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。