問題解決に役立つデザイン思考とは? デザイン思考を使った研修を導入する際の注意点

問題解決に役立つデザイン思考とは? デザイン思考を使った研修を導入する際の注意点

問題解決に役立つデザイン思考とは? デザイン思考を使った研修を導入する際の注意点

世の中にあるサービスや商品の多くが人々(消費者、ユーザー)の悩みや問題を解決するために作られたものです。

みなさんが営業しているもの、販売しているものも大半がそうだと思います。

そういったユーザーの悩みや問題を解決する際に役立つのがデザイン思考と呼ばれるものです。

今回は、デザイン思考の概要と活用ポイントについてご紹介したいと思います。

デザイン思考とは

デザイン思考とは、アメリカのデザインコンサルティング会社のアイディオ(IDEO)社が提唱し、広まったとされた思考法で、イノベーションを生み出すための方法論とされています。デザインに必要な考え方や手法を活かして、仕事上の問題解決を図る方法です。

デザインと聞くと、イラストや図形、模様など、アート的なものを想像しがちですが、 本来の広義的な意味合いでは、デザインは、「人の生活に必要なモノを作るために行われる設計、計画」などを指すようです。

そういった意味では、使う人(=ユーザー)のニーズや要望を満たすために考える方法であり、 ユーザーの視点からイノベーションを生み出し、問題発見や問題解決を図る方法と言えるのでしょう。

デザイン思考が使われるようになった背景

デザイン思考が広まった背景には、ここ10~20年の加速的に変化をし続ける環境が起因していると言われます。

これまでのこれまでの常識(知識や価値観・ノウハウ)が当てはまらない状況や 過去の経験や成功モデルが通用しない・不確実性が増しているのです。

そのため、既存の方法ではない新しい発想や新しい取り組みが必要になってきており、 既存の問題解決思考に捉われない、意図的にイノベーションを起こすための有効な方法の1つとして、注目されているのです。

デザイン思考のメリット/デメリット

デザイン思考のメリットとして、挙げられるのは下記3点です。

デザイン思考のメリット

①従来の問題解決思考では考えられないような広い視野で物事を捉えられる


デザイン思考は、通常の問題解決思考とは少し違うステップで、解決策を考えていきますので、固定観念に捉われない発想でアイデア出しをすることができます。

②良質な問いにたどりつく思考力が身に付く


デザイン思考の発案者、デザインコンサルティング会社IDEOのCEOティム・ブラウン氏は、デザイン思考の大切なポイントは【正しい問い】を見つけることとおっしゃっています。正しい問いを効果的に見つける方法は、顧客の視点に立つことだそうです。

つまり、顧客が何を望んでいるのか、将来何を必要とするのかなど、顧客の潜在ニーズをとことん観察し調べ上げ、 何が問題なのか?を明確にしていくのです。

そうしたプロセスによってデザイン思考だけでなく、ビジネスに必要な「問い」の力の鍛錬につながるそうです。

③相手目線を持ち、ユーザー視点を養える


デザイン思考は、ユーザーのニーズの調査、分析を行うために、ユーザーを観察してユーザーが抱える課題やニーズを見つていきます。商品やサービスを作る側の思い込みではなく、常にユーザーの視点に立って取り組んでいく必要があるのです。 こういったユーザー視点は顧客満足度を上げるためにも、新商品や新サービスの開発改良にもつながっていきます。

ユーザー視点を持つことで移り変わりが速く、かつ不確実性さが多くなった世の中で、固定概念や今までのやり方ではない方法で荒波を乗り切ることにもつながるはずです。

次にデザイン思考のデメリットとしては下記のようなものが挙げられます、

デザイン思考のデメリット

①表面的な問題設定になりがち


デザイン思考は、ユーザーの視点に立って「何が問題か、問題はどこか」などを観察やインタビューを通じて調査していきます。単純な観察やインタビューで終わってしまうと、ユーザーの深い深層心理、感情までは読み取れず、ユーザーが抱えている問題が表面的なもので終わってしまう可能性があります。そうなると、本当に悩んでいるところまで聞き取れず、問題設定がズレてしまう可能性があるのです。

②ありきたりなサービスや解決策になりやすい


デザイン思考は、ユーザー視点で考えることが多いため、ゼロベースでの商品やサービスのアイデア創出には不向きと言われています。また、デザイン思考によって問題解決する社内プロジェクトチームに広い視野で革新的は発想ができる方がいないと、ありきたりなアイデアになりやすいということが挙げられます。

③デザイン思考が根付きにくい


クリエイター採用のWebサービス「ViViViT」を展開するビビビットが、全国の企業を対象にデザイン経営およびデザイン思考について意識調査を実施したところ、「デザイン思考とは何か、なぜ必要かが社内に浸透している」を実感したのはわずか5%でした。

理解が進まない状況で、デザイン思考を実施しようとしても難しいです。もし仮に、デザイン思考を強行しても、それによって生まれたアイデアの実行も厳しくなるでしょう。

デザイン思考を活用する際の5つのステップとそれぞれのポイント

スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所では、「デザイン思考」を実践する際には、以下5つのプロセスを踏んでいく必要があると提唱しているそうです。

①共感(Empathize)

共感(Empathize)は、実在のユーザーを見つけ、観察やインタビューを行い、 そのユーザーが抱えている問題や欲求、ニーズ、本当に求めているものは何かを見つけ出すための作業です。

いきなり解決に至る仮説を立てるのではなく、ユーザーの活動や行動、置かれている状況を観察しながら、気付きを得る段階です。

目に見える行動や発言だけではなく、その背景にある考え方や心情・価値観について、詳細に観察・インタビュー(情報収集)を行うことが重要です。

②問題定義(Define)

ユーザーの「共感」をヒントに、ユーザーのニーズを定義する。本当は何を実現したいのか、潜在的な課題は何なのかを深掘り、抽出していくステップです。ここで抑えておきたいのが、ユーザー自身でもまだ気付いていないニーズもあると思われるため、言語化されている背景にあるユーザーの想いもしっかり洞察して、分析していく必要があります。それができれば、目指すべき方向性やコンセプトが設定しやすくなります。

③創造(Ideate)

創造は、ユーザーのニーズを定義できたところで、ブレーンストーミングなどの手法を用いて、それを解決するアイデアやアプローチ手法を話し合っていくステップです。

この段階では、アイデア創出に向けて、チームメンバー同士のコミュニケーションがポイントとなるので、 1人ではなく、複数名で行うことが大切です。質ではなく量を意識し、制限を設けずアウトプットできるようにしていくことを心がけましょう。

④試作(Prototype)

アイデアが固まったところで、次はチームで話し合って、合意を得たものの試作品を作っていきましょう。 時間やコストをできるだけ掛けずに、取りあえず、一度形にしてみることが大切です。

試作の目的は、「新たな気付きを得るため」と言われていますので、精度の高い完成品ではなく、 必要最低限の機能を有したテスト品で十分なのです。 アイデアを視覚化することで、新たな視点や問題点に気づくことができます。トライ&エラーの精神が大切です。

⑤テスト(Test)

テストは、作成した試作品を実際のユーザーらに使用・体験してもらい、 都度、ユーザーテストを繰り返し、フィードバックされた意見を参考にブラッシュアップを図っていく段階です。

定義したユーザーのニーズや課題、試作などが正しかったのかを確認し、より精度の高い製品やサービスを創り上げていくことが求められます。

これら5つのプロセスは①~⑤を順番にやっていく必要はなく、同時並行でも、行ったり来たりしても構いません。

デザイン思考

デザイン思考を使った研修を導入する際の注意点

デザイン思考を研修で身に付けさせたいと思われる経営者の方も多いと思います。

せっかくなので、最後にデザイン思考を使った研修を導入する際の3つの注意点をご紹介します。

①模擬演習ではイメージしやすいワークテーマにする

5つのステップのうち、ワークを行うと難しくなるのが、共感のステップです。

というのも、実際には、共感では、観察・インタビューを繰り返し、ユーザーが感じている課題や悩み、お困りごとの本質を突き詰めていくのですが、研修中は時間があまり多くは取れない、かつ、実際にユーザーに質問することができないため、その共感ステップの深掘りがしづらいからです。

5つのステップを模擬演習で行う際は、2つの要素を忘れずに取り入れるべきです。

1.研修参加者の誰もが使ったことある製品・サービスであること
2.問題や悩みが発生しそうな製品・サービスであること

例えばですが、脱毛サロンのサービスについて、ユーザー視点で問題やお困りごとを考えようとしても、男性だと脱毛サロンに行ったことがない方が多いので、そもそもイメージしづらいと思います。最近は男性用脱毛やヒゲ脱毛も増えているので行かれたことがある方も増えてきているかもしれませんが、参加者の半数がわからなければ、ワークが進みません。

誰もが使ったことがある製品やサービスだと、
ランドセル、ビジネス鞄、パソコン、携帯、傘、電車、タクシー、などなど、日常生活でよく使うものをテーマにした方が無難でしょう。

その中でも、問題や悩みが発生しやすいものに絞り込んでテーマを決めてみてください。

5、6年前であれば、音楽を聴くイヤホンをテーマに話すことがありました。よくある悩みとして、コードが絡む、失くしやすい、といったことを感じる人が多かったからです。いまやワイヤレスイヤホンが普及しているので、コード問題が解決されちゃいました。

私の長年の悩みでいうと、傘に関して悩むことがあります。出張が多いので、いきなり降られると新しく買わなければいけませんし、買ったら買ったで、持って帰るのが面倒くさいのです。折りたたみ傘も入れていますが、大降りだとカバーしきれなく、びしょ濡れになってしまうことも多々あり、買おうか悩むこともしばしば。

みなさんもそんな経験ありませんか?
こういったよく使うものだけど、ちょい不便なことがあるというのを題材にされると良いかもしれません。

参考までに研修で使用する発想転換クイズをご紹介したいと思います。

下記の写真を見ていただきたいのですが、このような問題になっています。

「あるマンションにはエレベーターが1つしかありませんでした。住人たちは長い待ち時間にイライラし、管理会社に多くの苦情が寄せられていました。」

デザイン思考

「エレベーターそのものには全く手を付けず、鮮やかに苦情を解消したある方法とは何でしょう?」

研修で出てきた回答例
・ゲームみたいな遊びを付ける
・待っている時間がポイントになり、近隣のお店で割引されるものを作る
・あと何分で着くかがわかる表示
・立ち読みできる本を置いておく
・エレベーターに乗れる予約システムを作る

エレベーターそのものには全く手を付けず、鮮やかに苦情を解消した秘策とは・・・「姿見」の鏡を付けることだったのです。 姿見を見ることで長く感じた待ち時間も自分の服装やメイクのチェックタイムに変わり、クレームはなくなったそうです。

このような身近でありそうなネタを参考にワーク設計していただけると良いかと思います。

②企業事例をなるべく多く配布資料に入れておく

過去、研修が終わったあとにたびたび聞かれたのが、事例がもっと知りたいという声です。どうしても誰もが知っている、使ったことがあるとなると、BtoC向けのものが多くなります。そうするとBtoB向けの会社さんは、結局、自社に持ち帰るには少し難しいかな、となってしまうようです。

結局は、、、というモチベーションになってしまうと現場で活用されなくなってしまいますので、企業事例としてBtoB向けのものも紹介してあげると良いかもしれません。

③自社の商品・サービスをテーマに扱う場合の注意点

自社の商品・サービスをテーマに扱う場合は、アイデアがありきたりになりやすいので注意が必要です。

よくあるケースとして、「自社の〇〇という商品をもっと使いやすくするためには?」といった類の演習テーマにされることが多いのですが、『そもそもそれが解決できていれば苦労しないよ。』というテーマでは、話し合いに深みが出ず、差し障りがないアイデアしか出てこない可能性があるのです。

そうなってしまっては、先ほどの②と同じように結局は、、、というモチベーションになりかねませんので、フォローが必要になってきます。

それではどうすれば?というところですが、自社の商品やサービスに関連するテーマ(問い)の場合は、発生型問題ではなく、今後、起こり得るような発見型(まだ起こってはいないが兆候がでているもの)の方がテーマとして扱いやすいようです。

テーマ設定も大切になってきますので、注意して研修を進めてみてください。


今回は、デザイン思考をご紹介いたしました。デザインと聞くとデザイナーやクリエイターだけに必要な思考法だと思われがちですが、従来の問題解決思考とは異なったアプローチを行うので、新たな発想での問題点解決につながる可能性が多分にあります。

ぜひ一度はデザイン思考で問題解決に取り組んでみてはいかがでしょうか?


【執筆者情報】

ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃

研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。

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