「遊び」が「自信」に変わる?就労移行支援所でビジネスゲーム研修が選ばれる理由

「遊び」が「自信」に変わる?就労移行支援所でビジネスゲーム研修が選ばれる理由

「遊び」が「自信」に変わる?就労移行支援所でビジネスゲーム研修が選ばれる理由

働くことへの「目に見えない不安」を、どう解消するか? 「働きたい」という気持ちはあるけれど、いざ一歩を踏み出そうとすると、胸のあたりがざわつくような不安に襲われる。そんな経験はありませんか?

就労移行支援事業所に通い始める方の多くが抱えているのは、具体的な「スキル不足」への悩みだけではありません。「実際の職場で、周りとうまく連携できるだろうか」「ミスをして迷惑をかけたらどうしよう」「指示の意味がわからなかったらどう聞き返せばいいのか」といった、対人関係や仕事の進め方に関する、形のない不安です。

これまで多くの支援現場では、こうした不安を解消するために「ビジネスマナー研修」が行われてきました。名刺交換の仕方や敬語の使い方を座学で学ぶことは、もちろん大切です。しかし、教科書の内容を「知っている」ことと、実際の現場で「できる」ことの間には、想像以上に大きな溝があります。静かな教室で講師の話を聞いているだけでは、刻一刻と状況が変わる「仕事のリアルな空気感」までは再現できないからです。

そこでいま、多くの事業所で注目されているのが「ビジネスゲーム研修」です。

「就職のための訓練なのに、ゲーム?」と驚かれるかもしれません。しかし、ここでのゲームは単なるレクリエーションではありません。「失敗しても誰にも迷惑がかからない安全な環境」の中で、仕事の疑似体験ができる高度なシミュレーション装置なのです。

ゲームという枠組みがあるからこそ、私たちは普段よりも少しだけ大胆に、そして素直に動くことができます。失敗して納期が遅れても、チームで意見が食い違っても、それはすべて「次はどうすればいいか?」を考えるための貴重なデータになります。

本コラムでは、なぜ「遊び」の要素を持つビジネスゲームが、就労移行支援においてこれほどまでに高い効果を発揮するのか。その理由を、心理的な安心感と実践的なスキルの習得という2つの側面から紐解いていきます。このコラムを読み終える頃には、あなたが抱えている「働くことへの不安」を「前向きな準備」に変えるヒントが見つかるはずです。



ビジネスゲーム研修がもたらす「3つの本質的な変化」

①「安全な失敗」が、挑戦への恐怖心を溶かす


就職を目指す多くの方が抱える最大の壁は、「失敗への恐怖」です。「一度でもミスをしたら、もう立ち直れないのではないか」「周りに見捨てられるのではないか」という不安は、行動を硬直させてしまいます。

ビジネスゲームの最大の価値は、この恐怖を「安全なシミュレーション」に置き換えることにあります。ゲームの中であれば、たとえ判断を誤って架空の会社が赤字になっても、納期に間に合わなくても、現実の人生が脅かされることはありません。むしろ、その失敗こそが「どうしてこうなったのか?」をチームで分析するための、最も価値のある教材になります。

「ここでは失敗しても大丈夫だ」という安心感(心理的安全性の確保)は、脳をリラックスさせ、学習効率を飛躍的に高めます。この「失敗してもやり直せる」という実体験を積み重ねることで、少しずつ、しかし確実に、実社会という「本番」へ向かうための心の筋力が鍛えられていくのです。

②「教科書には載っていない」生きたソフトスキルが身につく


仕事に必要なスキルは、大きく「ハードスキル(PC操作や専門知識)」と「ソフトスキル(コミュニケーションや判断力)」に分かれます。就労移行支援において、より習得が難しく、かつ定着の鍵を握るのが後者のソフトスキルです。

例えば、「報告・連絡・相談(報連相)」の重要性は、誰もが座学で学びます。しかし、「忙しそうにしている上司に、どのタイミングで、どの程度の情報量で話しかけるべきか」といった絶妙な状況判断は、教科書の文字を追うだけでは身につきません。

ビジネスゲームでは、刻一刻と状況が変化します。チームメイトとの情報共有が遅れれば、すぐにゲーム上の結果に跳ね返ってきます。「あ、いま自分が伝えたつもりになっていただけで、相手には伝わっていなかったんだ」という痛みを伴う気づきこそが、本当の意味でのスキル習得へと繋がります。ゲームを通じて得られるのは、単なる知識ではなく、実際の職場で即座に使いこなせる「身体知」としてのコミュニケーション能力なのです。

③「無意識のクセ」を可視化し、自分自身の取扱説明書を作る


私たちは、自分が思っている以上に「自分のこと」を知りません。特に、プレッシャーがかかった場面や、何かに熱中している場面では、自分でも気づいていない行動のクセが顕著に現れます。

ビジネスゲームは、一種の「鏡」のような役割を果たします。ゲームに没頭することで、普段の生活では隠れている**「意思決定の傾向」や「対人関係のパターン」**が自然と表に出てくるからです。

「自分は慎重すぎて、チャンスを逃してしまう傾向があるな」
「焦ると周りの声が聞こえなくなり、一人で抱え込んでしまうな」
「実は、混乱した状況を整理して仲間に伝えるのが得意かもしれない」

こうした気づきに対し、支援員(スタッフ)が客観的なフィードバックを行うことで、自分を客観視する「メタ認知能力」が高まります。自分の強みをどう活かし、弱みをどうカバーすれば働きやすくなるのか。ゲーム体験を通じて、自分自身の「取扱説明書」を具体的に描き出せるようになることは、就職後の職場定着において何にも代えがたい武器になります。

このように、ビジネスゲーム研修は単なる学習の枠を超え、「心のリハビリテーション」と「実践的な訓練」を同時に行うことができる稀有なメソッドです。


「知っている」を「できる」に変える:座学とビジネスゲームの決定的な差


就労移行支援において、ビジネスマナーや仕事の進め方を学ぶことは欠かせません。しかし、マナー本を暗記するような「座学研修」と、自ら意思決定を行う「ビジネスゲーム研修」とでは、脳の使い方も、得られる成果の質も根本から異なります。

その違いを、4つの視点から整理してみましょう。

①知識の習得(インプット)か、知恵の活用(アウトプット)か

座学研修の目的は、正しい知識を「正確に受け取ること」にあります。いわば、地図の読み方を教わっている状態です。一方、ビジネスゲーム研修の目的は、手元にある限られた情報を使い、自ら「道を選び取ること」にあります。

実際の職場は、教科書通りにはいきません。急な仕様変更、予期せぬトラブル、メンバーの体調不良……。そうした「正解のない状況」で、持っている知識をどう組み合わせ、どう行動に移すか。ビジネスゲームは、知識を「生きた知恵」へと昇華させるための実践訓練なのです。

②受動的な「聞き手」か、能動的な「当事者」か

座学研修では、講師の話を「聞く」時間が大半を占めます。集中力を維持するのが難しい方や、長時間の着席が負担に感じる方にとって、受動的な学習は時に苦痛を伴い、学習効率が下がってしまうことがあります。

対して、ビジネスゲームは参加者全員が「プレイヤー」です。自分の判断一つでゲームの展開が変わるため、自然と集中力が高まります。この「自分がこの場を動かしている」という当事者意識こそが、学びへの意欲を劇的に変えます。人から教わった100の言葉より、自分で動いて気づいた1つの経験の方が、はるかに深く心に刻まれるのです。

③記憶の定着率:エピソード記憶の強み

人間は、単なる情報の羅列よりも、感情が動いた出来事(エピソード記憶)をより強く記憶します。座学で「報連相は大切です」と10回聞くよりも、ゲームの中で「報告が漏れたせいでチームがピンチになった!」というヒヤリとする体験をする方が、その重要性は一生忘れない教訓となります。

「あの時、あんなに悔しい思いをしたから、次は早めに声をかけよう」。こうした感情を伴う学びは、実際の職場という緊張感のある場面でも、スッと思い出せる「使える記憶」として定着します。

④「対話」の質とフィードバック

座学でのコミュニケーションは、主に「講師対生徒」の一方向になりがちです。しかし、ビジネスゲームは「参加者同士」の横の繋がりが不可欠です。

「今の指示、もう少し具体的に言ってほしかった」「その作戦、いいですね!」といったやり取りがリアルタイムで発生します。

ゲーム終了後に行われる「振り返り(デブリーフィング)」では、支援員や仲間から多角的なフィードバックが得られます。自分の行動が他者にどう見えたかを知ることで、独りよがりではない、真の対人スキルが磨かれていきます。

座学研修 vs. ビジネスゲーム研修 比較まとめ

項目 座学研修(講義型) ビジネスゲーム研修(体験型)
主な役割 基礎知識、ルールの理解 知識の実践、状況判断力の育成
学習の姿勢 受動的(インプット中心) 能動的(アウトプット中心)
定着の仕組み 繰り返しによる記憶 感情と経験による記憶(エピソード記憶)
エラーの捉え方 「間違い」として修正される 「学びのヒント」として歓迎される
対人スキル ビジネススキル・マナーの「型」を覚える 相手との「調整」を体感する

もちろん、どちらか一方が優れているわけではありません。座学で「型」を知り、ビジネスゲームでその「型」を使いこなす。このインプットとアウトプットのサイクルを回すことこそが、就職というゴールへ向かう最短ルートなのです。


【実際の活用例】ゲームが「働く課題」を解決する瞬間


ビジネスゲームには、カードを使ったものから「紙やペン、ブロック」などの道具を使うものまで多種多様な形があります。ここでは、特に就労移行支援で効果が高いとされる3つのカテゴリーと、具体的なゲーム例を紹介します。

①合意形成ゲーム:自分と他者の「価値観のズレ」を知る


【例:NASAゲーム、砂漠からの脱出など】
これは、不時着した過酷な状況下で、手元にあるアイテムの優先順位をチームで決めるゲームです。正解は専門家によって定められていますが、重要なのは「答え」ではなく「決めるプロセス」にあります。

•働く上でのメリット
就労にあたって「自分の意見が通らないとパニックになる」「つい相手に合わせすぎてしまう」という悩みを抱える方は少なくありません。このゲームでは、「論理的に相手を説得する」「相手の意見を尊重しつつ着地点を探す」という高度な合意形成(コンセンサス)を体験できます。自分一人の視点よりも、チーム全員の知恵を合わせた方が正解に近づけるという成功体験は、チームで働くことへのポジティブなイメージを醸成します。


②情報共有ゲーム:正確な「報連相」の難しさと重要性を知る


【例:地図作成ゲーム、ジグソーメソッドなど】
参加者一人ひとりに「バラバラの情報(例:Aさんの家はBさんの家の隣だ、など)」が書かれたカードが配られ、それらを口頭だけで共有し合い、一枚の地図を完成させるゲームです。

•働く上でのメリット
実際の仕事現場で最も多いトラブルは「伝えたつもり」「聞いたつもり」によるミスです。このゲームでは、「自分が持っている情報は、相手は知らない」という前提に立ち、「主語を明確にする」「相手の理解を確認しながら話す」といった具体的な情報伝達スキルが磨かれます。また、断片的な情報を整理して全体像を把握する力は、複雑な業務指示を理解する力に直結します。


③計画・実行ゲーム:PDCAサイクルを身体で覚える


【例:ペーパータワー、マシュマロ・チャレンジなど】
限られた材料(紙や乾燥パスタなど)を使い、制限時間内にできるだけ高いタワーを作るゲームです。「作戦会議→実行→振り返り」を複数回繰り返すのが特徴です。

•働く上でのメリット
ADHD傾向のある方などで「計画を立てるのが苦手」「つい行き当たりばったりで動いてしまう」という課題に対し、このゲームは非常に有効です。1回目での失敗を糧に「次は役割分担を決めよう」「残り3分で補強しよう」と改善を重ねるプロセスを通じて、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの有効性を、知識ではなく「確かな手応え」として学ぶことができます。


ゲームの終わりは、学びの始まり これらのゲームに共通しているのは、終わった後の「振り返り」に最大の価値があるという点です。 「あの時、誰がどんな一言を発したことで状況が変わったか?」 「焦ったとき、自分はどういう行動をとったか?」 支援員と共にこれらの問いを掘り下げることで、ゲーム中の出来事はすべて、実際の職場で活用できる**「自分だけの攻略法」**へと変わります。ゲームというシミュレーターを通じて得た成功も失敗も、すべてが「働く自分」への自信を形作るピースとなっていくのです。



まとめ


ここまで見てきたように、就労移行支援におけるビジネスゲーム研修は、単なる「遊び」や「レクリエーション」の域を大きく超えたものです。それは、働くことへの不安を希望に変え、抽象的な「理想の社会人像」を「具体的な自分の動き」へと落とし込むための、最も実践的な訓練の一つです。 最後にビジネスゲーム研修がもたらす本質的な価値を3つの言葉に凝縮して振り返ります。

「できない」を「知る」から、「できる」を「増やす」へ

多くの研修は「足りないものを補う」という視点で行われがちですが、ビジネスゲームは**「自分の特性を活かす方法を見つける」**場です。ゲームを通じて見えてきた自分のクセや強みは、職場という未知の環境に立ち向かうための、あなただけの武器になります。

失敗は、成長のための「投資」になる

実際の職場でミスを恐れて萎縮してしまう前に、事業所という安全な「実験室」でたくさん失敗をしてください。ビジネスゲームでの失敗は、誰にも迷惑をかけないばかりか、チーム全員の学びを深めるための貴重な投資になります。「失敗してもリカバリーできる」という実感こそが、就職後にあなたを支える本当の自信(自己効力感)となります。

「一人じゃない」という安心感

ビジネスゲームは一人では成立しません。仲間と声を掛け合い、知恵を出し合い、一つの目標に向かう。そのプロセス自体が、孤独になりがちな就職活動において「自分もチームの一員として貢献できるんだ」という社会的な繋がりを再確認させてくれます。

支援の質を高め、利用者の「自走」を支えるために

私たち就労移行支援事業所の使命は、単に就職先を見つけることだけではありません。利用者が就職したその先で、直面する壁を自らの力で乗り越え、自分らしく働き続けられる「基盤」を作ることです。

ビジネスゲーム研修は、その基盤作りにおいて極めて強力なツールとなります。支援員という立場から見れば、ゲーム中の利用者の動きは、面談だけでは決して見えてこない「生のアセスメント(評価)データ」の宝庫です。どの場面で迷い、どこでコミュニケーションが停滞するのか。その特性をリアルタイムで把握できるからこそ、より的確で、一人ひとりの特性に根ざした個別支援計画が可能になります。

「教える支援」から、利用者が自ら「気づく環境を作る支援」へ

ビジネスゲームという手法を支援に取り入れることは、利用者にとっての成功体験をデザインすることに他なりません。私たちが提供する「安全な失敗の場」が多ければ多いほど、利用者は自信という鎧をまとい、社会という荒波へ勇気を持って漕ぎ出していけるようになります。

日々の支援の中で、もし「座学だけでは限界がある」「もっと本質的な変化を促したい」と感じていらっしゃるのであれば、ぜひビジネスゲーム研修の導入を検討してみてください。利用者の表情が変わり、行動が変わり、そして就職後の定着率が変わっていく。その手応えは、支援に携わる私たちにとっても、大きな希望となるはずです。


【執筆者情報】

ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃

研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。

ビジネスゲーム検索

  • 階層

    選択してください
  • 目的/業界

    選択してください
  • 人数

    選択してください
  • 時間

    選択してください