ゴールデンウィークも明けて、TwitterやFacebookでは、「仕事頑張ろー!!」や「今日からスタートダッシュです。」のようにモチベーションが高い投稿が多く見られる一方で、 「休みが終わる…」や「明日から仕事やだー😭」といったマイナス感情の投稿も見られる今日この頃ですが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか?
新入社員のフォローアップ研修でも、 モチベーションが下がってきているのを止めたいという依頼が毎年のように入ります。
モチベーションが上がったり、下がったりすることは、人間誰しもありますが、みなさんは、どうモチベーションをコントロールしていますか?
そもそも、モチベーションはコントロールできるものなのですか?と、聞かれることもありますが、
モチベーションを自分自身でコントロールすることができるのです。
今回のコラムでは、心理学の観点からモチベーション管理の秘訣について、ご紹介します。
モチベーションの研究はいつからされている?
モチベーションの研究の歴史
モチベーションの研究が本格化され始めたのは、今から約100年前のアメリカとされており、その発端となった有名な研究で、ホーソン実験というものがあります。
ホーソン実験とは、心理学教授レスリスバーガーと精神科医師のエルトン・メイヨーによって、アメリカのウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で実施された4つの実験のことをいいます。 1924年~1932年まで約8年間実施され、さまざまな条件下で労働者の生産性の変化についての仮説を立て実証が行われたものです。
当初は物理的な作業条件と従業員の作業能率の関係を分析する目的で照明実験、リレー組み立て実験、面接実験、バンク配線作業実験という四つの実験が行われました。
4つの実験の概要
照明実験
照明と生産性の関係を観察するために実施された実験です。仮説は明るい照明で生産性がアップするという予測でしたが、最終的な結果では明るさと生産性に確かな相関性は見られませんでした。
組み立て実験
疲労と能率の関係を調べるために行われた実験です。休憩時間や就業時間を変更し、部屋の温度から賃金などの労働条件を変更しながら、生産性と作業能率を記録しました。
この実験では、初めは賃金や休憩時間といった条件を改善することで、作業能率に向上が見られました。しかし、その後の実験で労働条件を元に戻しても、作業能筆が引き続き向上したため、外部要因と生産性にたしかな相関関係は導き出されなかったそうです。
面談実験
賃金制度や就業時間よりも、管理の在り方の質の良さ(人間関係の有効性)が作業能率に影響を与えることを確かめるために実施された実験です。
現場での状況を理解するために、2万人を超える従業員に対して面談が実施され、その結果、従業員の満足度は外的要因ではなく、個人の主観的な感情や好みから生じていること。そして、生産性と職場環境の関連性は小さく、逆に従業員の労働意欲が人間関係に左右されると指摘されました。
バンク配線作業実験
バンク配線作業実験は、職種の異なる労働者をグループとして、バンク(電話交換機の端子)の配線作業を行い、その協業の成果を計測しようとした実験でした。しかし、実際には、各労働者は自分の労働量を自ら制限していること品質検査では労働者の仕事の質だけではなく、検査官と労働者の人間関係が評価に影響すること労働者の時間当たりの成果の差違は、労働者の能力的な差違によるものではなかったことが分かりました。
ホーソン実験の結論
この4つのホーソン実験から導き出された結論は、「外的要因や職場環境ではなく、人間関係が労働生産性に影響する」というものです。
※ホーソン実験から導き出された結論は、確定的ではなく、批判や反論の研究もされている点はご留意ください。
「労働者の生産性を左右する心理的要因の一つとして、ワークモチベーションの重要性が認識されるようになり、本格的に研究が始まった。」と、池田浩氏が論文で述べられているように、
ホーソン実験は、モチベーションが生産性に関係するかどうかを実験で求めた訳ではなく、どちらというと、実験の結果、偶発的にモチベーションに左右されるのでは?という結論に至り、その後、マズローの欲求5段階説などの研究が本格化されていったという印象です。
九州大学准教授 池田浩氏 論文:https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/07/pdf/016-025.pdf
モチベーション理論の有名どころ
モチベーション理論とは、人の心理的側面からアプローチしてモチベーションをコントロールする方法論を言います。マズローの欲求5段階説もモチベーション理論の1つですが、前回ご紹介しましたので、割愛し、他の有名どころをいくつかご紹介します。
ハーズバーグの2要因理論
アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱したもので、1959年『作業動機の心理学』で発表されました。約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行ったところ、人の欲求には二つの種類があり、それぞれ人間の行動に異なった作用を及ぼすことがわかりました。
例えば、
人間が仕事に不満を感じる時は、その人の関心は自分たちの作業環境に向いている。
↕
人間が仕事に満足を感じる時は、その人の関心は仕事そのものに向いている。
ということがわかり、ハーズバーグは前者を衛生要因、後者を動機付け要因と名づけました。 前者が人間の環境に関するものであり、仕事の不満を予防する働きを持つ要因であるのに対して、後者はより高い業績へと人々を動機づける要因として作用しているとしています。
動機付け要因
仕事の満足に関わるのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など。これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではない。
衛生要因
仕事の不満足に関わるのは「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」など。これらが不足すると職務不満足を引き起こす。満たしたからといっても満足感につながるわけではない。単に不満足を予防する意味しか持たないという。
アンダーマイニング効果
アンダーマイニング効果とは、内発的に動機づけられた行為に対して外発的な動機づけを行うことによって、モチベーションが低減するという心理的効果です。
具体例としては、「業務を効率化するために、自分から率先して、マニュアル作成したら、それが 評価され、昇給した。それなら、上司から任されたり、依頼されたりした後に、やった方が評価が上がると思い、自分から主体的にやらなくなった」という現象です。
例えば、人の役に立ちたい、誰かの役に立ちたい、売上目標を達成したい、などの内発的動機に基づく行動をしていたのに、その行動に対して報酬などの外発的な動機付けになるようなエサを撒いてしまった結果、「報酬をもらえないのなら、したくない」というように動機や目的が置き換わってしまうことがあります。このようにモチベーションが低減する心理的効果をアンダーマイニング効果と言います。
ブルームの期待理論
ブルームの期待理論は、組織における人間行動の心理学分析の第一人者であるビクター・H・ブルーム氏によって提唱され、「期待理論」と呼ばれています。
期待理論では、職務遂行への努力が個人的報酬に結びつくという期待の連鎖と、報酬に対して個人が抱く主観的な価値(誘意性)によって、動機付け(行動の方向性)が決まる。と提唱されています。
期待の連鎖を成立させながら、好ましい成果を実現するには次の3つの要素が必要とされています。
1.魅力ある報酬の設定 2.個人の実力や潜在能力に応じた適切な目標設定 3.職務遂行を円滑に進めるための戦略策定
これらの要素が確立されてはじめて報酬への魅力を実感でき、目標達成に向けた合理的な行動を選択できるようになります。
モチベーションの高さを数値化するために、わかりやすく表記すると、「モチベーション=期待×誘意性×道具性」と表されます。
「誘意性」とは、提示された報酬に対しての魅力度を指します。報酬が魅力的であれば魅力的であるほど、誘意性は高まります。
「道具性」は、目標達成を達成することで、目指すさらに上の目標を達成する際にどれくらい有用かどうかを示す指標です。
自己成長への努力量と報酬への魅力感との相乗効果で、高いモチベーションを引き出せるのが特徴です。
これさえ抑えておけば、モチベーションは自分で管理できる!その方法とは?
みなさんは、モチベーショングラフというものをご存知でしょうか?みなさんも一度は、就職活動や新入社員研修時にやったことがあるのではないかと思います。
参照元:「就活市場」https://shukatsu-ichiba.com/article/12663
本来の使い方とは、違うかもしれませんが、このモチベーショングラフを使用して、モチベーションの上がり下がりする傾向の特徴を測ることができます。 1人でも行えますが、せっかくなら、複数人とグループを組んで、モチベーションの上がり下がりする傾向を洗い出し、共通点を見つけてもらうと面白いかもしれません。
研修中に多く出てくる発言内容として、
新しい目標が見つかったとき
新しい場所(学校、入社先、配属先)が決まったとき
良い結果が出たとき
人間関係が良好なとき(奥さんと良好、友人関係が良好)
結果が出ないとき
失敗して怒られたとき
環境に飽きてきたとき
人間関係で悩んだとき
上記のような内容が出てきます。
共通点として、ある「傾向」が見えてきます。
それは、人は下記のような物事に目を向けていると、
「モチベーションが上がったり、下がったりしてしまう」ということです。
「変えられないモノや変えづらいコトに目を向けているときは、モチベーションが下がりやすい。」
そして、
「変えられるモノや変えやすいコトに目を向けられているときは、モチベーションが上がりやすい。」
という傾向があるようです。
変えられないものや変えづらいこととは、
●他人
●過去
●環境
変えられるものや変えやすいものとは、
●自分
●未来
で、よく分類されます。
新しい目標が見つかったとき→未来
新しい場所(学校、入社先、配属先)が決まったとき→未来
良い結果が出たとき→結果がでて、自分の気持ちが良い
人間関係が良好なとき(奥さんと良好、友人関係が良好)→自分のいい心地が良い
結果が出ないとき→過去
失敗して怒られたとき→過去
環境に飽きてきたとき→環境が悪い
人間関係で悩んだとき→他人に悩まされる
いかがでしょうか?全てが全て、当てはまるわけではありませんが、このように傾向があてはまるわけです。
例えば、自分の上司や先輩の考え方や任せ方を変えようとするのは、難しいですし、部下や後輩の仕事の考え方や態度を変えようと思っても、なかなか変えるづらく難しいものです。他人には、影響を与えることはできますが、実際の行動を変えさせるためには、変えようという意思決定を他人が決断をしなければいけませんので、他人を変えることは難しいのです。
過去もそうです。自分がミスや失敗をしてしまい、お客様からクレームをもらったとしましょう。その失敗やミスをしてしまう前に戻りたいと思っても、タイムマシーンがあるわけではないので、過去に戻る事はできません。 過ぎ去ってしまったことを100時間も200時間も悩んでいたり、悔やんでいたりしても、過去は変えられないのです。
環境を変えるのも難しいです。 職場のルールや就業規則で決まっている制度など、自分の力のみで、環境を変えようと思っても難しいですよね?
こういった変えられないモノや変えづらいコトに目を向けていても、自力でどうすることもできないので、モチベーションは下がりやすいのです。
逆に変えられるモノは何か?
それが自分自身の行動や未来です。未来は、現在の先にありますので、未来を変えるとは、あくまで現在を変えた結果として未来に影響を与えることができるということです。未来を変えるために必要なのは、現在を変えることです。
アメリカの精神科医エリック・バーンも「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。」という有名な言葉を残しています。
変えられないモノに無駄なエネルギーを掛けるよりも、変えられるモノにフォーカスをした方が改善に向かった行動や取るべき行動が見えてきて、モチベーションが上がりやすくなります。
モチベーションが下がるときの対策として、みなさんの中で、変えられるモノに目を向けてみてください。 それだけでもモチベーションのセルフコントロールが格段にできるようになると思います。
今回は、心理学から見るモチベーション管理の秘訣をご紹介してまいりました。 変えられないモノではなく、変えられるモノに目を向けて、ぜひモチベーションを向上させていきましょう。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。