(コラム:プロジェクトマネジメントの基本とは)
単純業務ならまだしも、さまざまな業務が複雑化し、多様化し、プロジェクトが組まれることが多くなってきました。
そこで、今回は、プロジェクトマネジメントの管理術の1つであるPMBOKについて、ご紹介していきたいと思います。
先程のコラムでも、少しだけPMBOKについて触れさせていただきました。
PMBOKとは、「Project Management Body of Knowledge・プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」のことで、プロジェクトマネジメントの知識を体系的にまとめられたものです。PMBOKは、通称「ピンボック」と呼ばれ、アメリカの「PMI」というプロジェクトマネジメントの普及拡大を目的とした非営利団体によって作られました。現在では、PMBOKがプロジェクトマネジメントの世界標準となっているのです。
それでは、PMBOKについて、詳しく見ていきましょう。
PMBOKの存在価値
PMBOKは、ナレッジ集といわれる、知識をまとめたものですが、PMBOKが体系的にまとめられる前までは、プロジェクト管理は、人それぞれでした。
プロジェクト管理とはなんですか?と質問すると、スケジュール管理です。と答える人もいれば、お金の原価管理です。と答える人もいて、実はプロジェクト管理のイメージが十人十色、バラバラだったのです。PMBOKは、このように三者三様だったプロジェクト管理を10の管理エリアと5つのプロセスに整理し、体系立ててくれました。
また、PMBOKのおかげで、きちんとプロセスを管理するという考え方の重要性が広まったそうです。従来のプロジェクトマネジメントでは、設定したゴールや目標を目指すだけの動きや進捗管理だけが中心だったそうですが、目標を達成するためには、そこに至るプロセスも対象としてコントロールする必要があるとし、プロセスを管理する重要性が広まったそうです。
PMBOKの目標は、いわゆる「品質、費用、納期」といわれるQCDの管理です。
QCDとは、以下の3つの英単語の頭文字を取ったものです。
Cost=費用
Delivery=納期
一般的に、品質は、すぐ壊れてしまう低品質なものより、耐久性がある品質が高いものの方が好まれますし、ニーズが強いです。コストは、高いものより、低いものの方が、納期は、遅いより早い方が、ニーズがあります。
つまり、QCDの管理とは、プロジェクトによって異なりますが、一般的に多いのが、「可能な限り高品質で、できる限り低コストで、納期を早く」という目標を掲げ、それを達成するために計画を立て、実行していくことにあるわけです。
PMBOKでは、このQCD管理を成功させるために、大きく2つ重要な要素があるとしています。
1つ目は、「5つのプロセス」と呼ばれるプロセス、過程のコントロールを確実に行うことです。
そして2つ目は、「10個の知識エリア」と呼ばれる知識を理解することです。
QCD管理をうまくいかせるための5つのプロセス
PMBOKでは、プロジェクトの開始から終結までの流れを
「立ち上げ」→「計画」→「実行」→「監視・コントロール」→「終結」という5つのプロセスに分割し、定義しています。
それぞれのプロセスは、以下の通りです。
①立ち上げプロセス
プロジェクトの開始段階です。プロジェクトに必要な情報であるプロジェクトの目的、目標、予算、成果を定義し、プロジェクト憲章の作成とステークホルダー(利害関係者)の特定を行うフェーズになります。
②計画プロセス
計画プロセスは、プロジェクトの目的、目標を達成するための作業計画を立案し、作成するというプロセスで、スコープの洗い出しやタスク、必要なメンバーの洗い出しなどをし、プロジェクトの具体的な計画を立てるフェーズになります。
③実行プロセス
実行プロセスは、立案した計画に基づいて人員や実行に必要な資源を調整し、プロジェクトを実行するというフェーズになります。
④監視・コントロールプロセス
このプロセスは、実行内容が計画と際がないかの確認ともし必要であれば修正作業を行うフェーズになります。
⑤終結プロセス
終結プロセスは、所定のプロセスが完了していることを検証し、成果物を納品し、プロジェクトを終了させるフェーズになります。大切なのは、ただ終了するだけではなく、プロジェクト実行において得た情報や経験を保存し、次のプロジェクトに役立てることが重要です。
次に、5つのプロセスを実行していくために必要な「10個の知識エリア」と呼ばれる分野を紹介します。
PMBOKの10の知識エリア
プロジェクトマネジメントを行う上で、必要な知識集を、10個に分割し、定義したのが「10の知識エリア」です。
これらはゴールを構成するQCDの3要素と、プロセスを管理する7つの要素に分かれます。
(1)統合管理
プロジェクト全体の方針を定め、各目標やプロセスを調整し、管理することが「統合管理」です。9つの知識エリアを文字通り「統合」し、全体を管理します。
(2)スコープ管理
スコープマネジメントは、プロジェクトの範囲(=つまり、スコープ)を定めた上で、プロジェクトの目標を達成するために必要な成果物とタスクを定義し、目標達成を確実に行うための分野です。10個のうち、最重要項目とも言われています。
(3)スケジュール管理
プロジェクト遂行のためのスケジュールや時間を管理し、生産性の高い時間の使い方を目指す分野です。
(4)コスト管理
プロジェクトにかかる費用を予算内の金額で収まるように管理する分野です。予算内で収まるように、全体の予算設定や必要なコストの見積もりを行い、現実的に設定した全体予算の中で最適化を目指します。
(5)品質管理
プロジェクトのプロセスや、プロジェクトによってできた成果物の品質の管理をする分野が品質管理です。プロジェクトの品質とは、顧客が求めているものとマッチしており、使用可能であるということを指します。
(6)資源管理
プロジェクトの目的を達成するために人材だけでなく物的資源を調達・管理し、プロジェクトを遂行できるチームを組織する分野が資源マネジメントです。
(7)コミュニケーション管理
プロジェクトを遂行する上で、各ステークホルダー(利害関係者)との円滑なコミュニケーションを行うためのマネジメントです。重要なポイントとして、ただ伝達すればいいわけではなく、相手の理解をきちんと得るところまでが求められます。
(8)リスク管理
プロジェクトを遂行する上で、発生するリスク、危機に関するマネジメントの分野です。リスクを回避することではなく、リスクを把握した上で、そのリスクを最小限にとどめる対策を講じるなどが必要です。
(9)調達管理
プロジェクト上の業務に必要なサービスや商品、資材、プロダクトの調達を行い、管理します。プロジェクトチームや企業の社内・社外にかかわらず、調達先の選定や契約、納品までの進捗管理、検収などのすべての管理を行います。
(10)ステークホルダー管理
ステークホルダーとは、利害関係者のことです。ステークホルダーにとって、必要な情報を収集し、その保管・伝達を管理する分野がステークホルダー管理です。
PMBOKは、「教科書」でしかない点にご注意
プロジェクトマネジメントの考え方や手法を標準化したPMBOKは、あくまでも教科書です。 PMBOKを活用する上での懸念点や注意点を見ていきましょう。
想定外のイレギュラーに対応しづらい
PMBOKは、プロジェクトを完遂するためのマネジメント手法をマニュアルのように標準化しています。先述の10の知識エリアや5つのプロセスの型に沿ってプロジェクトを管理していけば、ほとんど多くの場合で、円滑にプロジェクト運営が可能になると思いますが、現代のビジネスは、移り変わりが速く、さまざまな異常事態、イレギュラーの発生リスクも増えてきています。そのため、社内やチーム内においても、発生したイレギュラーな事態やその対処方法についてのノウハウやナレッジを貯めていき、同様の事態が発生した際にスムーズに対応を進められる準備をしてくことが重要です。
複数のプロジェクトを同時並行で動かすことを想定していない
PMBOKはあくまでも1つのプロジェクトを管理することに触れていますが、今の多くの企業では、複数のプロジェクトが同時並行して進んでおり、それらをダブルにチェックしたり、束ねて集計することが必要になります。そういった点が考慮されていないことを頭に入れながら、プロジェクト管理の「型」にした方が良いとされています。
とはいえ、プロジェクトを管理する上で、PMBOKほど、体系化立って作られたものも存在はしませんので、教科書として、型を覚え、活用するには十二分すぎるほど、役に立ちます。 PMBOKに凝縮されたノウハウ、ナレッジは、世界共通の生きた知識集です。プロジェクト化した取り組みを多くの企業さまが取り入れていると思いますので、プロジェクトマネジメントを教育、研修の一環で、従業員、チームメンバーに学ばせてみるのも、有効な手立てだと思います。 もしくは、PMBOKに関連する書籍をチームメンバーに共通配布して、全員の意識や意識を統一させるのも有効な方法です。ぜひ参考にしてみてください。
プロジェクトマネジメントを学ぶ上で、大切な要素は、経験学習モデルを活用し、実際にプロジェクトの模擬体験をしながら、プロジェクトの進め方を学ぶことです。ビジネスゲームだからこそ、プロジェクトマネジメントのような少し難しい内容も、わかりやすく、楽しく学ぶことができます。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。