
なぜ内定者フォローにビジネスゲームなのか?
1. 双方向のコミュニケーションが生まれる
通常の会社説明会や懇親会では、どうしても「会社→内定者」への一方向のコミュニケーションになりがちです。 司会者や役員が話し、内定者はそれを聞く。質問タイムはあるものの、積極的に発言するのは一部の内定者だけ──そんな光景は珍しくありません。 ビジネスゲームでは、これとは全く異なるコミュニケーションの流れが生まれます。 内定者同士がチームを組み、戦略を話し合い、役割を分担し、互いに助け合いながら目標達成を目指すため、双方向の、しかも主体的なやり取りが自然と発生します。 たとえば、あるチーム対抗型ゲームでは、限られたリソースをどう配分するかを議論しなければなりません。 自分の意見を述べるだけでなく、他人の意見を聞き、納得し、折り合いをつけるというプロセスが必要になります。 この過程を通じて、内定者同士の距離感は一気に縮まり、企業に対する帰属意識も高まっていきます。
2. 楽しさの中に会社理解を織り込める
ビジネスゲーム最大の特長は、「楽しい」ことです。 人は楽しさを感じると、心理的ハードルが下がり、よりオープンな状態になります。 単なる座学や説明を聞くよりも、ゲームという形式を通じて、自然と会社への理解を深めることができるのです。 たとえば、ある製造業の企業では、自社の「改善文化」をテーマにしたビジネスゲームを内定者向けに開発しました。 内定者は仮想の工場経営を行い、生産性向上のために工夫を重ねるというゲームに取り組みます。 ゲームの中で自然と「現場改善」「PDCAサイクル」「カイゼンマインド」といった、会社が大切にしている価値観を体験的に学ぶことができました。 このように、ゲームを楽しみながら会社らしさを感じさせる工夫を施すことで、内定者に「この会社なら自分らしく働けそうだ」とポジティブな印象を持たせることができるのです。
3. 内定者同士の絆が深まる
入社後の活躍には、同期同士の支え合いが大きな影響を与えます。 しかし、内定時点ではまだ面識が薄く、打ち解けるまでに時間がかかることが多いのが実情です。 そのまま入社式を迎えると、配属後に孤立感を感じやすくなり、早期離職のリスクも高まります。 ビジネスゲームを通じた交流は、こうしたリスクを低減する効果があります。 たとえば、ミッション型のビジネスゲームで一緒に困難な課題を乗り越えた経験は、強い一体感を生み出します。 「一緒に頑張った」「助けてもらった」という記憶は、同期としての結びつきを強め、入社後の不安を和らげる支えになります。 ある企業では、ゲーム後に自然発生的に内定者同士のグループチャットが立ち上がり、 入社前から情報交換や励まし合いが行われたことで、内定者の定着率が向上したという成果が報告されています。

内定者フォローで使える具体的なビジネスゲーム活用例
では実際に、どのようなビジネスゲームを内定者交流会に活用すれば、内定辞退の防止や会社理解の促進、同期との絆づくりに効果的なのでしょうか。 ここでは、「体験型でありながら学びがある」という観点から、内定者向けに特におすすめできる3つのタイプをご紹介し、それぞれの特長と具体例、得られる効果を解説します。
1. チームビルディング型ゲーム
特徴:チームで協力しなければクリアできない仕掛けを用意し、仲間意識と信頼を育てる このタイプのゲームは、「初対面のメンバーと、いかに協力して課題を乗り越えるか」がカギになります。
チームワーク、役割分担、助け合いといったスキルが自然に発揮され、内定者同士の信頼関係が一気に深まるのが特徴です。
●タワービルディングゲーム
紙コップ、ストロー、輪ゴムなどの簡単な材料を使って、制限時間内に“できるだけ高く、かつ安定したタワー”を建てるというシンプルなルールのゲームです。 道具の使い方、設計の工夫、コミュニケーションの密度が成果を左右します。 【効果】・全員で手を動かしながら自然に会話が生まれ、緊張感が解ける
・得意不得意が表れやすく、互いの特性を理解できる
・うまくいかない場面で助け合いが生まれ、信頼関係が芽生える
●チーム対抗・謎解き脱出ゲーム
チームで協力してさまざまな謎を解き、制限時間内に“脱出”を目指すゲームです。参加者には異なる情報やヒントが与えられるため、情報共有と相互理解が鍵になります。 【効果】
・コミュニケーション量が圧倒的に増える
・“誰か1人だけが活躍すればよい”ではなく、“全員の知恵と視点が必要”な構成により、一体感が生まれる
・問題解決に向かう姿勢や、互いの考えを尊重する姿勢が育つ このようなゲームは、「一緒に何かを成し遂げた」という成功体験がそのまま“同期”としての絆に変わり、入社後の定着力にもつながります。

2. 経営シミュレーション型ゲーム
特徴:会社経営やプロジェクト運営を模擬体験しながら、ビジネスの本質と会社理解を深める 内定者の中には、「社会人として働くイメージがまだ漠然としている」「自分がこの会社でどんな仕事をするのかが想像しづらい」と感じている人が多くいます。
このような不安を払拭するのが、経営シミュレーション型ゲームです。
●会社経営シミュレーションゲーム
仮想の企業経営者となり、「仕入れ」「販売」「在庫管理」「価格設定」などの意思決定を重ねながら、利益を最大化することを目指すゲームです。 制限時間ごとに“決算”が行われ、数字で結果が明確に出るため、緊張感と達成感を両立できます。 【効果】・損益計算や資金繰りなど、ビジネスの基本構造を直感的に理解できる
・利益だけでなく「顧客満足」「社会的責任」といった非財務的視点の重要性も学べる
・実際の自社事業モデルに近づけることで、入社後の業務理解につながる

●プロジェクトマネジメント型ゲーム
「新サービス開発」「システム導入」などの架空プロジェクトを、チームで成功に導くゲームです。限られた資源(時間・人・予算)の中で、納期・品質・コストのバランスをどう取るかが問われます。 【効果】
・チーム内での調整や交渉の必要性が高く、実務に近い意思決定経験を得られる
・リーダーシップ・フォロワーシップの両方を体験でき、役割意識が芽生える
・自社の開発プロセスや業界特性を反映させれば、リアリティある会社理解が促進される このようなシミュレーションは、単に面白いだけでなく、「自分がこの会社でどんな意思決定をしていくのか」というキャリアイメージを描く助けになります。
3. 問題解決・ディスカッション型ゲーム
特徴:与えられた課題に対し、チームで議論を重ね、最適解を導くプロセスを体験する 論理的思考、課題設定力、傾聴・対話といった“ビジネスに必要なソフトスキル”を養うのに最適なのがこのタイプです。
ゲームと言っても、ワークショップ型であり、課題の抽象度によってさまざまな応用が可能です。
●業務改善PDCAゲーム
1つのテーマに対して、チームごとに「情報収集→分析→解決策立案→発表」までを短時間で行うゲームです。 最終的に他チームからの質疑応答を受けたり、順位がついたりすることで、緊張感と学びが高まります。 【効果】 ・準備・発表・反省というPDCAサイクルを体感できる・自己成長実感につながるため、内定者の満足度が高い
・ファシリテーターが最後に“会社のバリューとの接続”を説明することで、意味づけが深まる このようなゲームを導入することで、内定者自身が自分の成長ポテンシャルを感じられると同時に、「この会社なら学び続けられる」という期待感を持たせることができます。 ・「仲間意識の醸成」ならチームビルディング型
・「会社理解と仕事体験」なら経営シミュレーション型
・「成長実感と自己表現」ならディスカッション型 企業のカルチャーや内定者の傾向に合わせて、最適なゲームタイプを選定することが成功のカギとなります。 そして何より、ゲームは内定者にとって「会社との最初の思い出」になることが多いものです。この体験をどう設計するかで、入社へのモチベーションも大きく変わってくるでしょう。

内定者フォロー実施時のポイントと注意点
ビジネスゲームを取り入れた内定者交流会を成功させるには、いくつか押さえるべきポイントがあります。
ただ楽しく盛り上がれば良い、というわけではありません。目的に沿った設計と運営が、成果を大きく左右します。
1. 難易度設定は「成功体験」を意識する
ゲーム設計で最も重要なのは、「難易度バランス」です。 難しすぎて誰もゴールに辿り着けないゲームは、達成感よりも挫折感を生み出してしまいます。 逆に簡単すぎると、物足りなさから盛り上がりに欠ける恐れもあります。 理想は、「頑張ればチームで乗り越えられる絶妙な難易度」です。 例えば、少し考えないと解けない謎、役割分担を工夫しないと時間内に間に合わないタスクなどを設定し、チーム内で自然な試行錯誤と協力が生まれるようにします。 また、初対面同士のチーム編成を前提に、「導入ルールを簡潔に」「最初の成功を早めに体験させる」設計にすると、場が温まりやすくなります。 開始直後に小さな達成体験を挟み、そこから段階的に難易度を上げていくのも有効な手法です。
2. 企業らしさをさりげなく演出する
ビジネスゲーム交流会を単なるレクリエーションで終わらせないためには、「企業らしさ」をゲームに織り込む工夫が不可欠です。 具体的には、次のような方法が考えられます。
✓ゲームのテーマを、自社の事業領域や社会課題に関連づける
(例:物流会社なら「配送最適化」、IT企業なら「サービス開発競争」など)
✓ 成功条件や評価軸に、企業文化を反映させる
(例:「チーム貢献度も評価対象」とし、協調性を重視するなど)
✓ゲーム中に登場する用語や設定に、自社の用語や理念を盛り込む
たとえば、社会貢献を重視する企業であれば、単なる利益最大化だけでなく、「環境保護」「地域貢献」もゲーム内のスコア対象に設定することが考えられます。
こうした演出を通じて、内定者は無意識のうちに会社の価値観に共感しやすくなります。
(例:物流会社なら「配送最適化」、IT企業なら「サービス開発競争」など)
✓ 成功条件や評価軸に、企業文化を反映させる
(例:「チーム貢献度も評価対象」とし、協調性を重視するなど)
✓ゲーム中に登場する用語や設定に、自社の用語や理念を盛り込む
3. 振り返りセッションで「意味づけ」をする
ゲーム体験そのものも重要ですが、さらに重要なのが**「振り返り(リフレクション)」です。 ただゲームをして楽しかった、では終わらず、参加者に「なぜこの体験をしたのか」**を整理・言語化させることで、学びを深め、企業への理解を促します。 【効果的な振り返りセッションの進め方の例】
1. 個人で簡単なワークシートに気づきを記入
2. チームごとに気づきを共有
3. ファシリテーターから会社のバリューや求める行動様式との関連を補足説明 【問いかけ例】
-「このゲームの中で、うまくいったことは何でしたか?」
-「困難な局面をどう乗り越えましたか?」
-「この経験を、入社後にどう活かせると思いますか?」 こうしたプロセスを通じて、ゲーム体験が単なる思い出で終わらず、内定者の心に「この会社に入りたい」という意志をより強く根付かせることができます。

まとめ
内定辞退防止の鍵は、単なる「情報提供」ではなく、心を動かす体験を提供することです。 ビジネスゲームを使った内定者交流会は、単なるレクリエーションではなく、 – 会社理解
– 同期との絆形成
– 成功体験による自己効力感向上
という3つの効果を同時に生み出す、極めて効果的な施策です。 重要なのは、単にゲームを導入するのではなく、 – 企業らしさを織り込み
– 成功体験を設計し
– 振り返りで意味づけをする
という一連の設計・運営をきちんと行うことです。 これからの時代、優秀な人材を確保し、早期離職を防ぐためには、内定者フォローの質を高めることが不可欠です。 ぜひ、ビジネスゲームという新たなアプローチを取り入れ、未来の仲間づくりをより確かなものにしていきましょう!
【執筆者情報】
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。