そうした課題に対して、ゲーム要素を取り入れることで参加者の主体性と楽しさを引き出しながら、本質的な学びを提供する手法が注目されています。 その中でも、「サッカーのポジション当てゲーム」は比較的シンプルなルールながらも、コミュニケーションとロジカルシンキングを同時に体験的に学べる優れたツールだと思います。
このゲームのユニークな点は、「各自が所持する情報カードを 口頭のみ で共有しあう」というルールです。チーム全体で11人のサッカー選手のポジションを正しく当てるのが最終目的ですが、カードを見せ合うことは禁じられているため、いかに論点を整理して言葉で相手を理解させるかがカギになります。いわば、「人に正確に伝えること」と「論理をすり合わせて合意を得ること」を同時に体感できる構造なのです。
企業の新入社員研修や管理職向け研修、あるいは採用時のグループワークの一環としても取り入れやすく、参加者同士の心理的距離を縮めるチームビルディング効果も高いのが特徴なのです。本コラムでは、ゲームの効果や導入メリット、具体的な準備や注意点などを包括的にご紹介し、皆様が実際に活用しやすいよう、段階的にヒントやアドバイスを提供していきたいと思います。サッカーのポジション当てゲームとは
サッカーのポジション当てゲームは、チームで協力してサッカーのポジションを当て、正解を導き出すコミュニケーションゲームです。ジグソーメソッドとも呼ばれ、情報整理や論理的思考を養うことができます。
【ルール】
➀チームメンバーに情報カードを配る
➁情報カードには、サッカーのポジションに関する情報が記載されている
➂情報カードの内容をチーム内で口頭で共有する
➃時間内に「誰が、どのポジションを守っているか」を特定する
【目的】
・協力して情報を整理し、論理的に考えることの重要性を学ぶ
・コミュニケーション能力を向上させる
【活用場面】
・研修や会議などのチームビルディングの場面で活用できる
・野球のポジション当てゲームなど、さまざまなスポーツのポジション当てゲームが存在します。

サッカーのポジション当てゲームの効果と学べるポイント
コミュニケーション力の向上
まず一番に挙げたいのが、コミュニケーション力の改善です。ゲーム内では、参加者それぞれが「何枚かの情報カード」を持ち、それを口頭だけで伝える必要があります。
たとえば、
•「○○選手はGKと仲が良いらしい」
•「××選手は左利きで、LSBかLWGかDMFのどれかかもしれない」
といったヒントがあった場合、これをどのタイミングで、どんな言葉を使って共有すればチーム全体が理解しやすいか、常に工夫が求められます。
さらに、聞き手側の努力もポイントです。一方的に情報を聞かされるだけでは不十分で、わからない点は質問し、曖昧な点は確認し、チーム内で重複や矛盾がないようすり合わせることが必要です。日常の会議やミーティングでもよくある「言っているつもり・わかっているつもり」のギャップに、ゲームを通して気付けるのは大きな収穫です。
情報整理・ロジカルシンキング(論理的思考)の訓練
次に、情報整理と論理的思考力を楽しく学べる点が挙げられます。ゲームの根幹は、ばらばらに与えられた情報をつなぎ合わせ、推理と論証によって正解を導くパズル的な要素です。ここで生きるのが、
●縦の論理展開(Why So?/So What?) …「なぜそう言えるのか?」を掘り下げ、「だから何が言えるのか?」を広げる
●横の論理展開(MECE) …情報の抜け漏れや重複がないかを確認し、全体像を網羅する
といった思考法です。たとえば、「A選手は180cm以上なのでDFかGKの可能性が高い」「B選手とA選手は同じマンションに住んでいる、だからポジション上のヒントとして関連性はあるのか?」といった具合に、複数の要素を矛盾なく組み立てる力が試されます。
実務や学業においても、「根拠と結論をしっかり結びつける」「情報を過不足なく整理する」ことは大切ですが、座学で学んでもなかなか体得しづらいものです。本ゲームでは、楽しみながら自然に論理思考のプロセスを体感できるため、学習効果が定着しやすいでしょう。
チームワーク・協働意識の醸成
このゲームを複数名のチームで進める場合、一人ひとりの持つ情報を結集して「正解」というゴールを目指す構造になります。誰か一人が答えを独占しても意味がなく、情報や推測をリアルタイムで共有しあってこそ、最適な結果に近づけるのです。
気付かなかった点を指摘し合う、整理してあげるなど、助け合いの姿勢が重要となります。
●協力しないと成立しない仕組み
協力ゲームであるため、自然にチーム全体でゴールを目指す雰囲気が醸成されます。

ゲーム導入時のポイント
1. チーム編成と人数設定
1チームあたり4〜6名で実施するのが最適です。これより人数が多いと議論の際に発言機会が偏ったり、情報管理が散漫になりがちです。逆に、3名以下の少人数だと1人当たりのカード枚数が増え、負担が大きくなってゲームそのもののバランスが崩れることもあります。
•役割分担を確認: 自然発生的に「書記役」「情報まとめ役」「タイムキーパー」などが生まれる場合もあるため、明示的に役割を決めるかどうかは検討しましょう。
2. ルール説明の明確化
ゲームを円滑に進めるためには、スタート前のルール説明が極めて重要です。次のような事項を明確にしておくと混乱が少なくなります。
2.情報共有は口頭のみ:書類やチャットでのやりとりなどは禁止(必要ならメモは可)。
3.制限時間:何分以内に答えを導き出すのかを具体的に設定する。
4.最終的な解答形式:解答用紙に「どの選手がどのポジションか」を書くなど、ゴールを明確化。
3. 進行役(ファシリテーター)の設定
複数チームを一斉に動かす場合や、初めて導入する際は進行役を任命しましょう。ファシリテーターが担う具体的な役割は以下の通りです。
•時間管理: 開始時・残り10分・残り5分・終了など、タイムキープをアナウンスする。
•ヒントの提供: 行き詰まっているチームに対して「どのカード情報を優先すべきか」程度の簡易的な示唆を与える。
•解答の受け取りと正解発表: 全チームの最終解答を回収し、合否を判定。正解例を示して、後ほど解説する。
4. 制限時間とヒント提示の工夫
目安としては、30〜40分のプレイ時間が適しています。これ以上長いとダレる可能性が高く、短すぎると十分に議論が深まらないまま終了してしまうでしょう。
•長めの時間(40〜50分)で行うメリット: じっくり議論できるため、初心者も焦らず学べる。

5. 振り返り(レビュー)の設定
ゲーム後の振り返りは、研修効果を飛躍的に高める重要なステップです。主なテーマとしては以下が挙げられます。 ➀コミュニケーション面
•「自分の情報をどう伝えればもっと正確に伝わったか?」
•「他の人が理解できていなそうなとき、どんな補足ができたか?」
•「情報共有時にどの程度の確認が必要だったか?」 ➁論理思考面
•「MECEの考え方で情報を整理できたか?」
•「なぜこの結論に至ったのかを言語化できるか?」
•「矛盾が発生した際にどう修正したのか?」 ➂チームワーク面
•「メンバー同士でどのような連携・役割分担があったか?」
•「協力してゴールに近づく過程で何が得られたか?」 これらを「成功例」「失敗例」を交えながら振り返り、次の行動につなげると、「ただ楽しいだけのゲーム」で終わらず、実務や学習に活かせる気づきを多く得られます。

ゲームの導入時に役立つ追加情報のご紹介!
「サッカーのポジション当てゲーム」を実際に導入する際に知っておくと便利な追加情報について、文章形式で詳しくご紹介します。具体的な準備やスケジュール例、難易度の調整法、過去の事例、フォローアップの方法などを順に解説しますので、研修計画やクラス運営の参考にしてみてください。
1. 具体的な準備物と運営コスト
ゲームを円滑に進めるために、まずは情報カードの作成と保管方法を検討しましょう。ゲーム専用のカードをオリジナルで用意する場合、テンプレートをPCで作成し、印刷・ラミネート作業を行う必要があるため、担当者の負担やコストを前もって見積もっておくと安心です。ラミネート加工を施すと長持ちし、使い回しがしやすいほか、持ち運びにも便利です。紙質によってはすぐに折れたり汚れたりするため、カードを保護する袋やケースを用意しておくのもよいでしょう。 また、会場のレイアウトについては、1チームあたり4〜6人がまとまって座れるテーブルを複数用意できると理想的です。参加者が話し合いやすいように、テーブル間をやや離して配置し、チーム同士の会話が混ざりすぎないよう工夫するとよいでしょう。さらに、全体説明や正解発表時にはホワイトボードやモニター、プロジェクターなどがあると便利です。参加者のうち何人かがメモや筆記用具を忘れてしまう場合もあるため、十分な数を予備として用意し、すぐに貸し出せるようにしておくとスムーズです。
2. 具体的な進行スケジュール例
当日の流れは大きく「導入→ゲーム本編→正解発表→振り返り」の4つに分けると進めやすくなります。導入では5〜10分ほど時間をかけて、ゲームの趣旨や狙い、ルール、チーム分けの方法などをしっかり説明すると、後々の混乱が減るでしょう。続いて、ゲーム本編には30〜40分程度を割き、それぞれのチームに情報カードを配布して一斉にスタートします。この際、進行役が10分おきに残り時間を告げるなど、タイムキープをこまめに行うことで、参加者が集中力を保ちやすくなります。 ゲーム終了後には正解発表を行い、解答用紙と照らし合わせて結果を確認します。全チームの結果を集計し、正解にたどり着いたチームがある場合は拍手で称えるなど、簡単な演出を加えるとよいでしょう。最後に、振り返りの時間を10〜20分ほど用意し、各チームがどのように議論を進めていたか、どうすればより論理的に情報を整理できたかなどを話し合う場を設けます。こうしたプロセスをしっかり踏むことで、学習効果とチームワーク醸成の両方が高まります。
3. 難易度やバリエーションの調整方法
初めてこのゲームを導入するときは、初心者向けに難易度を下げる工夫をすると、参加者が取り組みやすくなります。たとえば、「特定のカードだけは見せ合ってもいい」という緩和ルールを採用したり、制限時間を45〜50分に延ばすなど、時間と情報量のバランスを調整するのがおすすめです。必要に応じて「ヒントカード」を事前に少し用意しておき、行き詰まったチームがそのカードを使用できるようにすると、適度なストレスでゲームを楽しめます。 一方で、すでに何度かプレイして慣れている参加者や、論理思考の訓練をより強化したい場合には、「メモ禁止」「制限時間を20分に短縮」「カードの情報量や複雑さを増やす」などの方法で難易度を上げることができます。さらに、ゲームのテーマをサッカー以外のスポーツに変更したり、企業や架空の事件捜査を舞台にしたりするなど、設定をアレンジしても面白いでしょう。
4. 実際の導入事例や成功例・失敗例
企業の新入社員研修で導入した事例では、ふだん接点が少ない部署同士の新卒社員が混ざってチームを組むことで、自然と名前や顔を覚え合うきっかけになったという声が多く聞かれました。短時間でアイスブレイクしつつ、論理的思考の基礎も体験できたことが評価され、ゲーム終了後の交流会でも話題が尽きなかったようです。その一方で、制限時間を長く設定しすぎた結果、当初の予定よりもダラダラとゲームが続いてしまい、振り返りの時間がほとんど取れなかったという失敗例もあります。時間管理とルール周知が甘いと、学習面での成果が中途半端になりやすいため、導入前にはしっかり準備とシミュレーションを行うことが大切です。 こうした成功と失敗の事例から言えるのは、ゲームの導入を計画する際には必ず「適切な時間配分」「明確なルール説明」「ゲームの狙いを意識したファシリテーション」の3点を外さないようにすることです。特に時間が足りなくなると振り返りが十分にできず、「何となく楽しかった」で終わってしまいがちなので、あらかじめ逆算して進行スケジュールを組むと良いでしょう。
5. より深い学習やフィードバックに繋げる仕組み
ゲームが終わった後に学びを定着させるには、参加者自身が自分の行動や思考を振り返り、言語化してみる時間が欠かせません。たとえば、「自分はどの情報カードを何回伝えたか」「理解しにくかった部分をどう補足できたか」といった観点で振り返る自己評価シートを用意してみるのも効果的です。これにより、曖昧だった記憶や感覚が整理され、「今度はもっとこうしよう」という具体的な改善策に繋がります。 また、振り返りのディスカッションをより深めるには、「誤情報が広まった場合、どのように修正すればよかったか」「特定のカードの情報に気づいていれば、議論がスムーズになったのではないか」など、ゲーム中に発生した事象を題材に話し合うのが効果的です。単なる感想で終わらせず、どのような論理的手順やコミュニケーションの工夫をすればより良い結論にたどり着けたかを、チーム全体で検討してみてください。
6. アンケートやフォローアップ施策
最後に、実践後のフォローアップについても触れておきます。ゲーム終了直後に短いアンケートを実施すると、参加者の満足度や学習到達度、時間配分や難易度に関する意見をリアルタイムで収集できます。こうしたフィードバックは、次回に向けた調整材料として非常に役立ちます。また、企業や学校であれば、数週間後に「今回身につけたコミュニケーションや論理思考のポイントを、実際の業務や学習でどう生かしているか」を共有する場を設けるのもおすすめです。ひとたび体験したゲームの学びを、具体的な行動レベルに落とし込みやすくなるだけでなく、参加者同士の継続的な交流や励まし合いにもつながるでしょう。 このように、「サッカーのポジション当てゲーム」を活かすためには、単純にゲームを行うだけでなく、準備段階や実施後のレビュー、さらには後日フォローアップに至るまでを丁寧に計画することが大切です。適切な工夫を重ねることで、コミュニケーション力やロジカルシンキングの向上、チームビルディング効果など、ゲームがもたらす学びを最大限に引き出すことができます。

まとめ
「サッカーのポジション当てゲーム」は、口頭でのみ情報を伝えるというシンプルな制約を活かして、コミュニケーション力、論理的思考力、チームワークを同時に養うことができる研修プログラムです。サッカーそのものの知識がなくても参加しやすい点や、初対面のメンバーが多い場面でも自然と協力体制を築ける点が大きな魅力となっています。 ●コミュニケーション面: 情報をわかりやすく伝える・理解できているか確かめ合う習慣が身につく。
●論理思考面: 情報を整理し、矛盾や抜け漏れを発見するプロセスで、Why So?/So What?やMECEなどの手法を体感できる。
●チームビルディング面: 協力なしにはゴールにたどり着けないため、参加者同士が協調しやすく、絆が深まりやすい。 導入時は、チーム人数の最適化やルール周知、ファシリテーターの設置、制限時間や難易度の調整、振り返りの設定といったポイントを押さえておくと、効果的で満足度の高い研修になります。また、準備物や進行スケジュール、フォローアップ施策などをしっかり計画すると、学習効果と楽しさを両立したイベントになるはずです。 実務や学業で役立つ「伝達力」「推理力」「協働意識」を体験的に学べるこのゲームを、ぜひ活用してみてください。参加者同士のコミュニケーションが一段と活性化し、チームとしての結束力・成果向上にもつながることを実感できるでしょう。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。