チームビルディングや組織開発、組織づくりにおいて、意識すべきポイントとして、「関係の質」というものがあります。
これは、「組織の成功循環モデル」と呼ばれる理論の中で提唱されているものです。
「組織の成功循環モデル」とは、マサチューセッツ工科大学元教授のダニエル・キム氏が提唱した理論です。
組織の成功循環モデル
●サイクルの図
これは、組織が成果を上げ続け、成功に向かう過程や仕組みを明らかにしたもので、組織としての「結果の質」を高めるには、遠回りに思えても、組織に属するメンバー同士の「関係の質」をまずは高めるべきとされています。
組織の循環モデルには、グッドサイクル(好循環)とバッドサイクル(悪循環)が存在すると言われています。
【悪循環サイクル】
①成果があがらない(結果の質)
②対立、押しつけ、命令する(関係の質)
③面白くない、受身になる(思考の質)
④指示されないと動かない(行動の質)
⑤関係が悪化する(関係の質)
となり、バッドサイクルが回り続けてしまいます。
バッドサイクルは、結果だけを求め、目先の数字や成果などの「結果の質」を向上させようとすることから始まります。
しかし、なかなか成果が上がらず「結果の質」が低下すると、組織内で、対立が生まれ、強者による押し付け、黙って指示、命令をやっていればいいといった自発性をかき消すようになり、「関係の質」が低下して行きます。社内の上司、同僚との「関係の質」が悪化すると、当然、メンバーは仕事を面白いとは感じられません。
自ら考えることをやめ、受け身になってしまい、「思考の質」が低下。自発的・積極的に行動しなくなり、「行動の質」も低下し、成果が上がりにくくなってしまいます。つまり、さらなる「結果の質」の低下を招いているわけです。ときには一時的に成果が上がるかもしれないが、それはメンバーが追い詰められた状態で出した成果にすぎないので、持続せず、結局同じサイクル(悪循環サイクル)が回り続けてしまうのです。
【好循環サイクル】
①お互いに尊重し一緒に考える(関係の質)
②気づきがある、面白い(思考の質)
③自分で考え、自発的に行動する(行動の質)
④成果が得られる(成果の質)
⑤信頼関係が高まる(関係の質)
といった、グッドサイクルが回り続けて行きます。
グッドサイクルは、「関係の質」を高めるところから始めます。「関係の質」を高めるとは、相互理解を深め、お互いを尊重し、一緒に考えることす。ここから始めると、メンバーは自分で気づき、面白いと感じるようになり、「思考の質」が向上し、多くの意見やアイディアが出るようになります。
面白いと感じるので、自分で考え、自発的に行動するようになり、「行動の質」が向上して行きます。その結果として「結果の質」が向上し、成果が得られ、その実績によって今まで以上に信頼関係を高めることに繋がり、「関係の質」がさらに向上し続けるサイクル(好循環サイクル)が回り続けて行きます。
なぜ関係の質を良くしていく必要があるのか?
職場の人間関係が良好か悪化しているかによって、働くメンバーにかかるストレスの有無が変わってきます。
実際に厚生労働省の労働統計によると、職場の人間関係によって、多くの人がストレスに感じていることがわかります。とくに10代、20代の若年層はそう感じているようです。
職場の人間関係が悪い=強いストレスを感じている
ということです。
逆にいえば、人間関係が良い=ストレスフリーな状態になり、無駄なことに悩まなくても良くなるのです。
その結果、業務に集中でき、生産性の向上や成果の向上につながっていくはずです。
関係の質を良くしていく必要性はこういった統計結果からもわかるはずです。
関係の質を改善していくための取り組みで勘違いしてはいけないコト
私が管理職研修やリーダー研修を講師として行っていると、受講生の発言でこんなことを耳にします。
「部下との関係性を良くするために部下に尽くすようにしています」
「部下にはあまり負担をかけさせたくない」
「部下に嫌がられそうで厳しいことを言えなくなってきた」
意外や意外、結構、上司の方も部下に対して遠慮してしまい、気を遣っている方々が増えてきたように思います。
部下を気遣ってなんて素晴らしいと思えますが、
ここで注意していただきたい点があるのです。
それは、部下を気遣うのと、甘やかすのとは違うということです。
関係の質を良くしていくために、部下を想いやる気持ちは大切ですが、優しくしようとしてしまい、本来、言わなければいけないことや指導しなければいけないことまで言わずに流してしまうのでは、本末転倒です。
優秀な上司、優秀なリーダーが求められているのは、部下や後輩を一人前に育て、成果が出せる人間に成長させることなのです。
関係の質を気にするあまり、
部下には注意や指摘をしないでおこう、や
部下には優しい声掛けだけして無難に対応しよう、
だけではいけないのです。
社内の関係の質は、決して仲良しクラブ、仲良しサークルのようなものを目指すべきではありません。
会社、組織の目指しているミッション、達成したい目標やビジョンから逆算し、行動指針や価値観にあったチームづくりをしていくことが必要です。
例えば、部下の行動、言動を会社の行動指針に照らし合わせてみたときに間違ったことをしているのであれば、指導をきちんと行うべきです。行動指針と比較して、ダメだったのかをわかってもらうことで、部下を納得させ、改善行動につながりやすくなります。
部下を指導をする際、フィードバックする際、本当なら言いたくないことも言わなければなりません。甘やかすだけでは人は育たないのです。
関係の質を高めるために、しっかりと部下とのコミュケーションを取るようにしていきましょう。
今回は、ダニエルキム氏が提唱した組織の成功循環モデルについてご紹介いたしました。 成果、結果を出すためには、その前にある行動の質を改善し、行動の質の前にある思考の質を良くし、思考の質を良くするために、関係の質を良くしていくのです。
どんな組織にもあてはまるような理論ですので、チームづくりの一環として、ぜひ参考にしてみてください。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。