タイムマネジメントの重要性は言わずもがなかと思いますが、多くの人がタイムマネジメントや時間管理に悩んでいるようです。
私も、タイムマネジメント研修の講師をしていて、下記のようなお悩みをよく耳にします。
・忙しすぎて、時間に追われてしまっています。 ・タスクの優先度が高いものが多すぎて、切羽詰まっています ・自分でやらなくても良いことも任せられなくて、時間がかかってしまうんですよ
人に平等に与えられているものが時間です。1日が24時間というのは変わりません。 タイムマネジメントは、よく時間管理と言われますが、人には、時間そのものを増やしたり、減らしたりはできません。 例えば、1日の時間を26時間に増やすことはできませんよね?(時差がある場所を使えば、、、とかは考えないでください笑。)
時間は有限だからこそ、限られた時間内で、うまく仕事を回していく必要があるのです。
そういった意味でいうと、タイムマネジメントとは、 「時間の使い方の改善によって、業務の効率化や生産性の向上を図ること」と言えるでしょう。
タイムマネジメント=時間の使い方の改善によって、業務の効率化や生産性の向上を図ること
今回は、タイムマネジメントのテクニックの1つである優先順位マトリックスをご紹介していきます。
タイムマネジメントが難しいとされる理由
前述したようにタイムマネジメントの研修をしていると、時間の使い方が難しいというお声をよく聞きます。
それは、なぜなのでしょうか?
いくつか理由が有りそうですが、大きくは3つだと思われます。
タスクの細分化が粗い
まず考えられるのが仕事のタスクを細分化していくときの粒度が粗い。ということが挙げられます。
タスクの粒度が粗い状態=曖昧な状態
タイムマネジメントのスタートは、自分が何をするべきかなのか、タスクを把握していくこと(タスクを細分化していき、どの手順で行っていくのかを考えていく)が必要です。
例えば、新商品の営業資料作成というタスクがあったとしましょう。
みなさんなら、このタスクをどう処理しますか?
少し考えてみてください。
もし仮にみなさんの部下にAさんとBさんがいたとしましょう。 下記のAさんとBさんとでは、どちらの方がタスクをうまく進めてくれそうでしょうか?
Aさんが出してきたタスク
・新商品の良いポイントを書き出す
・新商品の営業資料に載せる情報を羅列する
・羅列した情報のページを入力して埋めていく
・写真や画像などを挿入して見やすくする
Bさんが出してきたタスク
・新商品の良いポイントを書き出す
・新商品の営業資料に載せる目次(ページタイトル)を考える
・目次で出したページの中身(詳細となる情報)を集める
・調べた情報をもとにページの原稿を入力していく
・1スライドごとに伝えたいメッセージを強調する
・写真や画像などを挿入して見やすくする
・内容を見返す
・他の人に資料を見てもらい、フィードバックをもらう
・フィードバックの内容を参考に資料を修正する
いかがでしょうか? おそらくBさんの方がうまくタスクを進めてくれると思えるのではないでしょうか。
タスクを細分化していくことで、やるべきことに抜け漏れがなくなっていき、タスク完了までの手順を具体的にイメージすることができます。タスクの手順が見えることで、何をどう進めれば良いかわかり、所要時間も設定することができるのです。
このタスクの細分化が粗いと、抜け漏れが発生してしまい、やり直しが多くなり、結果、時間が掛かってしまうのです。
時間の見積もりが甘い
2つ目は、作業に要する「時間の見積もり」における甘さが挙げられます。 タスクのスケジュール組みをしていくには、各タスクに関して、時間軸の情報が必要です。
・どれくらいの時間がかかるか(所要時間)
・いつまでにやるか(期限)
・いつやるか(タイミング)
どれかひとつでも設定し忘れてしまうと、わかりづらくなり、スケジュールは不明瞭のままになってしまいます。 所要時間の見積もりが甘ければ、予定時間内にタスクを完了できず、スケジュールが崩壊してしまいますし、締切がわからなかったり、タスクを行うタイミングを決めなかったりすれば、やろうと思っていたことをどんどん後回しにしてしまうでしょう。
段取りが甘い
3つ目は、タスクを行うまでの準備の甘さ。つまりは、「段取り」の甘さです。
タスクには、
「今すぐやるべきもの」
「後回しでも、かまわないもの」
「じっくり時間をかけるべき、重要なもの」など、さまざまな種類が混在しているのです。
そういった状況の中で、タスクの種類を見極め、それぞれの重要性・緊急性を考慮した上で、優先順位を決めて、準備していく必要があるのです。
やってはいけないNGなものとして、「頼まれた順」や「やりたい順」でスケジュールを組んでいくことです。重要な仕事を簡単に終わらせたり、いますぐやるべきことを後に回したりすれば、成果を出すことは難しくなってしまうでしょう。
こういった上記の3点の理由からタイムマネジメントが難しいと言われるのではないかと思います。 逆に、タイムマネジメントが上手な方は、「考えて出したタスク」や「突発的に出てきたタスク」をうまく回せている人だと言えるでしょう。
優先順位マトリックスとは
タイムマネジメントを上手に行うために「優先順位マトリックス」というフレームワークが存在します。
※他にも「緊急度×重要度のマトリクス」、「時間管理のマトリクス」、「アイゼンハワーのマトリックス」と呼ばれています。
優先順位マトリックスとは、洗い出したタスクの優先順位をつける際のフレームワークです。
アメリカのスティーブン・R・コヴィー氏が「7つの習慣」という本の中で紹介したものになります。また第34代アメリカ合衆国大統アイゼンハワーがタスクや時間管理を行う時に使っていたフレームワークと言われており、そのため、アイゼンハワーのマトリックスと呼ばれているのです。
仕事を進める上では、ToDoリストのように単純にタスクを並べるよりも、リストアップしたタスクの優先順位を付けた方がはかどります。 優先順位を付ける際は、2つの評価軸を用いて、決めていきます。
縦軸に「緊急度」、横軸に「重要度」で、マトリックスをつくっていきます。 マトリックスとは、あるテーマの情報を「縦軸」と「横軸」に分け、情報の整理をすることといいます。下記が緊急度・重要度のマトリクスになります。
2つの評価軸を使って分けると、図に記載のある通り、4つの領域にわかれます。
●第2領域 緊急度は低いが重要度は高い業務
●第3領域 緊急度は高いが重要度は低い業務
●第4領域 緊急度・重要度ともに低い業務
タスクをこの4つの領域に整理することで、今、自分が何をしなければいけないのか、会社として何を取り組んだら良いのかを明確化できるのです。
緊急度と重要度を4象限に振り分けることで、優先度の高い領域から取り組み、優先度が低いものについては、必ずしも自分でやるのではなく、他人に任せたり、時間を見つけて行うことで、タスクを適切かつ効率良く回すことができます。
ただ、よく見られる現象が、すべてのタスクが「緊急かつ重要」の領域に分類されていることです。 これでは、優先順位を付けていることにはなりませんので、しっかりと基準を設けることが大切です。
優先順位マトリックスを活用する際のポイント
第1領域:緊急かつ重要
緊急かつ重要は、一番優先順位が高い領域です。例えば、お客様からのクレームがあったときの対応等が該当するのではないでしょうか。対応スピードが大切で、対応スピードが遅れてしまうと、満足度が低下し、利益の損失につながりかねません。 クレームだけではありません。私たちの業界でいうと、コロナ禍で対面の研修が難しくなりました。その際に、オンライン研修に移行できた会社とできなかった会社で、機会損失に大きく差が出てしまったのです。
緊急かつ重要の第1領域のタスクをないがしろにしてしまうと、大きな損失や失敗に繋がります。そういった点から考えると、大きな機会損失や失敗につながらないようなタスクは、緊急かつ重要のエリアに入らないということになります。
第2領域:重要だが緊急ではない
重要だが緊急ではないものは、2つ目に取り組むべきタスクです。 大事にしていきたいタスク内容になります。例えば、企業の戦略を検討したり、経営目標、各自の売上目標達成のために検討したりする時間が該当します。 短期的な利益は見込めないが、長期的には大きな利益に繋がる項目が、この第2領域に振り分けられます。緊急度がないために、多くの人が後回しにしがちになるエリアですが、未来への大きな投資になるので、少しずつこなしていくことが大切です。計画的に取り組めるようにスケジュールを管理していきましょう。
第3領域:緊急だが重要ではない
緊急だが重要ではない第3領域が、3つ目に片付けるべき領域のタスクとなります。 例えば、間接部門の方々でいうと、会社へ掛かってくる営業電話などではないでしょうか?電話の場合は、出る前はどこの企業からもわからないものの、電話が鳴っている状態ですので、取らざるを得ません。対応しなければいけないですが、あくまでもその受け取っている時間は利益に直結するわけでもありません。 ここに振り分けられる作業内容は手軽で短期間で終わるものが多いのでサクサク片付けていきましょう。重要ではない作業なので、他の人に依頼できる内容であれば、できれば、仕事を振っていきましょう。
第4領域:重要でも緊急でもない
最後に、重要でも、緊急でもない第4領域が、一番優先順位の低いエリアです。 例えば、「長時間、必要以上の息抜きやたばこ休息」、「社内の人間からのだらだらとした電話や世間話」、「その他、無意味な活動」です。部下の立場で、役職が上の人間からの世間話や雑談を切り上げるのは難しかったり、断りづらかったりします。ですが、時間は無限にあるわけではありませんので、ムダなこと、ムラがあることなどのこの第4領域は、減らしていきましょう。
タスクをうまく回していくためには、第1領域と第2領域にどれだけ時間を割けられるかが重要です。第3領域の内容を減らし、第4領域についても、極力、ゼロにしていけると良いでしょう。
社内でタイムマネジメント研修を行う場合の活用事例
社内で、優先順位マトリックスを活用し、タイムマネジメント研修などを実施される際は、 下記を意識して実施されると、良いでしょう。
手順①
各自の抱えているタスクやこれから行いたいタスクについて、まずはリストアップしてもらいます。
手順②
洗い出したタスクについて、優先順位マトリックスに当てはめて、第1領域、第2領域、第3領域、第4領域に分類をしてもらいましょう。
手順③
洗い出したタスクを優先順位マトリックス(第1領域、第2領域、第3領域、第4領域)に分類した理由を発表してもらいます。
手順④
その理由をもとに各自の設定した重要・緊急の【基準】を明確にしていただき、他者が発表した基準について、どう感じたのか?やこういった点が改善できるのでは?といった所感やアドバイスをしあっていただきます。
手順⑤
優先順位マトリックスについての解説を社内講師(ファシリテーター)が詳細に行いましょう。
人によって、こういった評価軸の基準はバラバラですし、曖昧です。 上記の手順で、基準を明確化していき、可視化していけると、社内のタスク管理も見える化できるようになっていくでしょう。 タスク管理がスムーズに行えることで、行動の質もあがっていき、生産性も向上されていくはずです。
今回は、タイムマネジメントに有効な優先順位マトリックスについて、ご紹介していきました。
時間がない!
忙しいから無理!
といったことを言い訳にしても、改善もされず、何も生まれません。
現状のタスクの洗い出しを行いながら、緊急かつ重要なのか?、緊急ではないが重要なのか?、緊急だけど重要じゃないのか?、緊急でも重要でもないのか?といった視点で、タスクの優先順位を付けていきましょう。優先順位をしっかりつけることでやるべきこと、やらなくてもいいことが明確にわかり、行動の質が高まっていくはずです。 生産性向上に向けたタイムマネジメントを行うために、この「優先順位マトリックス」をぜひ活用してみてください。
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。