こうした背景の中で近年注目されているのが、ビジネスゲームという手法です。オンライン会議ツールや専用のシステムを活用してビジネスゲームを取り入れることで、受講者が主体的に学びに参加し、実践的な思考力やコミュニケーション力を身につけられる可能性があります。本コラムでは、オンライン研修でビジネスゲームを活用する意義や具体的なメリット、導入ポイントなどについて詳しく紹介し、新人研修におけるマンネリ打破のヒントをお伝えします。
目次
オンライン研修の現状と課題
ビジネスゲームとは? 〜オンライン活用が注目される理由〜
ビジネスゲームを新人研修に取り入れるメリット
オンライン・ビジネスゲームの種類と選び方
ビジネスゲームの活用イメージのご紹介
導入時の注意点と成功に導くポイント
オンライン研修の現状と課題
ビジネスゲームとは? 〜オンライン活用が注目される理由〜
ビジネスゲームを新人研修に取り入れるメリット
オンライン・ビジネスゲームの種類と選び方
ビジネスゲームの活用イメージのご紹介
導入時の注意点と成功に導くポイント

オンライン研修の現状と課題
1. オンライン研修の一般化とその背景
コロナ禍以前にも、遠隔地にいる社員や海外拠点向けにオンライン研修が行われることはありました。しかし、パンデミック以降は一気に需要が高まり、多くの企業が当たり前のようにオンライン形式を導入するようになりました。オンライン研修には、「移動コストや会場費がかからない」「場所を問わず多くの受講者が一度に参加できる」といった明確なメリットがあります。一方で、その急激な普及が新たな課題を顕在化させてもいます。
2. オンライン研修における代表的な課題
①双方向性の不足
講師による一方向的な講義に偏りがちで、受講者が能動的に参加できる機会が少なくなる。質問やディスカッションのハードルが高く、受講者が黙って画面を見続けるだけになることも。②コミュニケーションの希薄化
対面であれば、ちょっとした雑談や休憩時間の会話を通じて同期同士の親睦や講師との関係構築が進む。オンラインではその機会が限定的なため、一体感やチーム意識が芽生えにくい。③集中力・モチベーションの維持
オンライン研修は受講者が自宅や作業スペースから参加することが多いため、周囲に気が散る要素(私用メールやSNSなど)が多い。長時間の座学だと特にモチベーションが低下しやすい。④講師や運営側の負担
受講者の反応を把握しづらいため、理解度や参加意欲をリアルタイムでチェックしにくい。また、技術トラブルへの対処やオンライン特有のツール操作説明など、追加のサポートが必要になる。 これらの課題をいかに解消していくかは、オンライン研修の成功にとって重要なポイントです。そこで求められるのは、研修設計における双方向性・体験型の強化であり、その具体策としてビジネスゲームが注目されています。
ビジネスゲームとは? 〜オンライン活用が注目される理由〜
1. ビジネスゲームの概要
ビジネスゲームは、架空のビジネス環境や課題をシミュレートしながら、参加者が意思決定や問題解決を行う「ゲーム型研修」の総称です。たとえば、「仮想の会社経営」「顧客折衝のロールプレイ」「製造プロセスの最適化を競うシミュレーション」など多岐にわたります。受講者はゲーム内で戦略を立てて行動し、その結果を数値やフィードバックという形でリアルタイムに受け取りながら学習を深めます。
2. オンライン化がもたらすメリット
①地理的制約からの解放
リアルであれば同じ会場に集まる必要があるビジネスゲームも、オンライン環境を整えることで遠方の拠点や海外からでも参加できる。②リアルタイムのログ・データ蓄積
オンラインシステム上でゲームを進めるため、意思決定の過程や結果が自動的に記録される。後日の振り返りやレポート作成に活用できる。③外部の専門家や講師とのコラボレーション
対面では招へいが難しい専門家や講師であっても、オンラインであれば遠隔からファシリテートや解説を行うことが可能になる。3.ゲームの「楽しさ」がもたらす学習効果
ビジネスゲームの大きな特徴の一つは、研修に「楽しさ」という要素を持ち込むことです。単調な座学では飽きてしまう受講者も、ゲーム形式であれば主体的に参加しやすくなります。また、ゲームという仮想空間内では「失敗も学びの一つ」として捉えられやすく、実務であれば避けたいリスクを積極的に試すことができる点が学習効果を高める理由といえます。
ビジネスゲームを新人研修に取り入れるメリット
ビジネスゲームを取り入れるメリットとして以下のようなものが挙げられます。
1. モチベーションの向上
新人は右も左も分からない状態で、研修を受けることに対して不安を抱えがちです。そこにエンターテインメント性を取り入れることで、「難しそうなビジネス課題にゲーム感覚で挑戦してみよう」という心理的ハードルを下げられます。結果として、研修そのものを前向きに捉える受講者が増え、学習に積極的に取り組むモチベーションにつながります。2. 実践的な思考力・コミュニケーション力の育成
たとえば「経営シミュレーション型」のゲームでは、受講者が社長やマネージャーの役を担い、売上やコスト管理をリアルタイムで行います。これは教科書的な座学以上に、実務と直結した思考プロセスが求められます。また、チームでゲームに参加する場合は、互いに意見を出し合い、説得したり合意を取ったりするコミュニケーション力が不可欠になります。これらは、そのまま現場での仕事に活きる重要なスキルとなります。3. 自発的学習の促進
ゲーム内の成果や失敗が即座にフィードバックとして返ってくるため、受講者は自然と「この選択は正しかったのか?」「次はどう改善すればいいか?」と振り返るようになります。講師やファシリテーターがわざわざ問いかけなくても、受講者自身が次のアクションを考える循環が生まれやすいのが特徴です。その結果、能動的な学習意欲が醸成されることが期待できるのです。4. チームワークと企業文化の醸成
新人研修の大きな目的の一つは、同期同士の結束や企業文化の理解を促すことでもあります。ビジネスゲームによるチームプレイは、オンライン環境でも協力体制を育むのに適しており、「一緒にゲームをクリアする」という体験は強い連帯感を生み出します。新人同士がゲームを通じて素のコミュニケーションを取り合うことで、企業の価値観やチームワークの重要性を体感的に学べるでしょう。オンライン・ビジネスゲームの種類と選び方
1. ビジネスゲームの種類
①経営シミュレーション型
経営シミュレーション型では、参加者は仮想企業の経営者や幹部として、戦略立案や予算管理、販売計画などを行います。具体的には「数期にわたる経営を通じて、どのように利益を最大化するか」「どんな投資を行い、どのくらいの在庫を確保するか」といったダイナミックな意思決定が求められます。新人研修でこれを行うメリットとしては、“部分最適”ではなく“全体最適”を考える視点をいち早く身につけられることが挙げられます。②プロジェクトシミュレーション型
新商品の企画やイベント運営など、限られた時間やリソースの中で成果を出すシナリオを想定するゲームです。複数のタスクが同時進行する中で、優先順位の付け方やチームメンバーへの役割分担がクリティカルになります。プロジェクトマネジメントの基礎を学ぶきっかけとして有効であり、将来的にリーダーシップを担う人材を育成する上でも役立ちます。③コミュニケーション型
「ロールプレイを通じてお客様の要望をヒアリングし、最適な提案を行う」「クレーム対応の疑似体験をする」といった、より実務に近い接客・交渉シミュレーションが行われるタイプです。新人が苦手とする電話応対や営業トークなどを、安全なゲーム空間で試せるのが大きなメリットです。オンラインならばグループごとにブレイクアウトルームを作り、各ロール(顧客役・営業担当役など)に分かれて練習ができます。④テーマ特化型
テーマ特化型のビジネスゲームとは、ある特定のテーマや課題にフォーカスし、その領域に特化した学習効果を高めることを目的とした研修用ゲームです。たとえば、「デザイン思考」「リスクマネジメント」「新規事業のアイデア創出」「働き方改革」「組織改革」「職場環境改善」など、企業や部署が抱える具体的な課題や強化したいスキルに合わせてカスタマイズするケースが多く見られます。 最大の魅力は、対象となるテーマを集中的に深掘りできる点です。一般的な経営シミュレーション型やプロジェクトシミュレーション型のように幅広い要素を扱うゲームに比べて、学ぶ内容が限定される分、学習効率が高まります。たとえば「デザイン思考」をテーマにしたゲームでは、徹底的にユーザー目線でのプロダクト開発やサービス改善を体験しながら、アイデア発想や迅速なプロトタイピングのプロセスを身につけることができます。一方「リスクマネジメント」をテーマにしたゲームであれば、組織の潜在的なリスク要因を見極め、マニュアル化や優先順位づけをシミュレートしながら、意思決定のスキルを強化することが可能です。

2. それぞれの選定のポイント
ゲームの選定のポイントは大きく分けて4つです。 1.研修目的や育成したいスキル
経営視点を学ぶのか、コミュニケーション力を強化するのか、あるいはチームワークを重視するのか。目的に合ったゲームを選ぶことが重要です。
2.受講者の人数や構成
大人数向けに設計されたゲームもあれば、少人数向けの集中的なシミュレーションもあります。
3.費用や時間的制約
オンラインゲーム導入にかかるシステム費用や、進行に要する時間を考慮して選ぶことが大切です。
4.運営者(講師・ファシリテーター)のスキル
ゲーム進行には適切なファシリテーションが欠かせないため、運営担当者のレベルやノウハウも考慮に入れましょう。 オンライン・ビジネスゲームは大きく分けて「経営シミュレーション型」「プロジェクトシミュレーション型」「コミュニケーション型」「テーマ特化型」などに分類されます。それぞれに特徴や学習できる内容が異なるため、まずは 研修目的や獲得したいスキルを明確にし、最適なゲームを選定することが重要です。 また、オンライン環境やファシリテーション、費用対効果などを事前に確認し、無理なく運用できる仕組みを整えましょう。うまく導入すれば、双方向性・主体性・チームワークといった要素をオンライン研修でも高めることができ、新人や若手社員の実務力向上に大いに役立つでしょう。
ビジネスゲームの活用イメージのご紹介
ビジネスゲームを導入するにあたり、活用イメージがあった方が参考にしやすいと思いますので、ここでは背景、実施内容、期待される効果の観点で活用イメージをご紹介していきたいと思います。
●IT企業の新人研修の場合
【背景】急成長中のIT企業で、新人が一気に増えたため、従来の集合型研修が物理的に困難となった。オンラインで研修を行う上で、受講者同士の対話を促進し、ビジネスの実践的な視点を育てたいという課題がありそう。 【実施すべき内容】
・オンライン経営シミュレーション
・4〜5名ずつのチームに分かれ、仮想企業を経営する。
・売上、コスト、マーケティングなどの指標をリアルタイムで管理し、戦略会議をオンライン上で実施。
・短期集中型の振り返りゲームプレイとレビューを組み合わせ、意思決定のプロセスや数値の変動を即座に振り返り、改善策を議論する内容。 【期待される成果】
新人たちはゲームの中でリアルタイムに経営指標が変動する様子を見ながらディスカッションを重ねることで、経営指標やマーケティング戦略をゲーム内で実践的に学び、実務感覚を身につけられます。 また少人数チームで戦略を考え合うことで、同期同士の深いコミュニケーションが促進されるでしょう。
●製造業の若手社員向け課題解決ゲーム
【背景】業務改善を進めたいものの、若手社員が現場の課題に対して受け身になりがちで、自ら動いて改善提案をする風土が根付いていない。コスト削減や生産性向上といったテーマに興味を持ってもらう必要がありそう。 【実施内容】
・製造プロセスシミュレーション
・チームごとに「歩留まり向上」「リードタイム短縮」「品質確保」を目指しながら仮想ラインを運営する。
・ゲーム中に突発的な問題が発生し、対処のスピードと判断力が問われる。
・リアルな工場の再現度で実際の工場現場で想定しうる問題をシナリオに盛り込み、ゲーム後には「同様の課題を自分の職場ではどう解決できるか」を議論する。 【期待される成果】
ゲームで競争と協力を体験する中で、若手社員同士が活発にアイデアを出し合い、「実際の工場でも、こんな方法が使えそう」といった具体的な改善策を見つける練習になるでしょう。ゲームで出てきた改善策を試験的に実行し、製造ラインのレイアウト変更や管理方法の刷新につなげられます。

導入時の注意点と成功に導くポイント
ビジネスゲームを導入する際の注意点とポイントについて以下にご紹介していきます。
導入時の注意点
●ゲーム内容と研修目的の整合性
研修のゴールが曖昧なまま「面白そうだから」などの理由だけでゲームを選んでしまうと、受講者が「何を学ぶ研修だったのか分からない」という状態になりがちです。研修の目的とゲームの学習効果がかみ合っていれば、「このゲームを通じて●●を身につける」といった明確な意義を示せるため、受講者の参加意欲も高まり、学びの成果も出やすくなります。
●インターネット環境やツールの準備
オンラインで実施する以上、通信状態が不安定だったり、ソフトウェアが正しく動作しなかったりすると、ゲームが途中で止まる・再開できないといったトラブルが起こります。そうなると研修の進行そのものが成り立たず、受講者のモチベーションも下がってしまいます。スムーズに学習を進めるためには、事前の環境チェックやツール準備が欠かせません。●講師・ファシリテーターの役割
オンライン研修では、受講者が「いつ、どんなタイミングで話せばいいのか」分からず黙ってしまうことがよくあります。ファシリテーターがしっかりと声掛けを行い、チャットや挙手機能などを活用して発言を促さなければ、せっかくの参加型ゲームも一部の人だけが話す形になりがちです。円滑な進行をサポートできる人材がいることで、全員が積極的に学ぶ環境が整います。●時間配分と休憩のタイミング
ゲームにのめり込みすぎると意外なほど疲れがたまり、オンライン越しでは集中力の低下も早まりがちです。適切な休憩時間や進捗確認の時間を設けないと、途中で集中が切れたり内容が頭に入らなくなったりします。あらかじめ時間管理をしっかりと行い、計画的に休憩を挟むことで、最後まで高い学習効果を維持できるのです。
成功に導くポイント
●小規模なテスト導入から始める
大人数や大規模な研修をいきなり行うと、思わぬトラブルや運営の難しさに直面したときに、対処が追いつかないことがあります。事前に少人数で試してみることで、ゲームの難易度やツールの使い勝手、ファシリテーションのやり方などを確認でき、問題点を洗い出して修正できます。その結果、本格導入の際のリスクを大幅に減らすことが可能です。●振り返り(レビュー)をしっかり行う
ゲーム形式の研修は盛り上がりやすい一方で、そのままでは「楽しかった」で終わる危険があります。振り返りの場を設けて、成功・失敗の原因を受講者同士で話し合ったり、学んだ点や気づきを共有したりすることで、自分の行動を客観的に見直しやすくなります。こうした内省を通じて経験が知識化され、実務への応用力も高まるのです。●ロールの設定や役割分担を明確にする
チーム形式の研修では、積極的に動くメンバーとそうでないメンバーの差が生まれやすいです。リーダー役・サブリーダー役・分析担当・記録係などを決めておけば、一人ひとりが自分の役割を意識し、主体的に研修に参加できます。全員が役割を果たすことでチームに一体感が生まれ、学習成果が高まります。●ゲーム後の実務連携プランを用意する
研修の中で面白いアイデアが出ても、そのまま実務に活かされなければ宝の持ち腐れになってしまいます。ゲームで得た発想や方法論を現場に適用してみる、あるいは次回の会議で検討するなど、実務に落とし込む仕組みをあらかじめ用意しておくことで、研修の学びが定着しやすくなります。これにより、「研修で終わらず、本当に業務に役立っている」という手応えを受講者が得ることができます。まとめ
オンライン研修が一般化する時代において、新人研修のマンネリ化は多くの企業にとって切実な課題です。対面とは異なる環境下で、いかに受講者の集中力とモチベーションを維持し、チームワークや実践的スキルを身につけさせるか。その答えの一つとして、ビジネスゲームを活用した「体験型」プログラムが注目を集めています。 ゲームを通じて楽しみながら実務に近い意思決定やコミュニケーションを体験できるため、オンライン上でも学習への主体性や仲間との一体感を育むことが可能です。また、小規模なテスト導入を繰り返していけば、自社独自の目的や人材育成方針に合ったカスタマイズができるようになります。マンネリ打破の切り札として、オンライン・ビジネスゲームは今後ますます活用の幅を広げていくでしょう。 もし自社の新人研修で新しい手法を模索しているなら、まずはビジネスゲームを取り入れてみることを検討してみてください。小規模なトライアルからスタートし、受講者の反応や改善点をフィードバックしていく中で、オンライン研修の可能性を大きく広げる一歩となるはずです。
【執筆者情報】
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。