社会心理学から見る理想の上司・リーダーとしての振る舞い方

社会心理学から見る理想の上司・リーダーとしての振る舞い方

社会心理学から見る理想の上司・リーダーとしての振る舞い方

社会心理学_バイアス

ここ最近、管理職の方々から「リーダーとしてのあるべき姿とか学んだことがないから、わからないんですよね」と、相談を受けることも多くなってきました。

上司のみなさんは、日々、リーダーとして、どういった振る舞いをされていますか?、意識されていることは何かありますか?

上司、リーダーになったばかりの方だと、リーダーとしての姿や振る舞い方を考える機会があまりなかったかもしれません。

そこで、今回は、社会心理学の観点から見る上司、リーダーの振る舞い方を考察していきたいと思います。

ちなみに社会心理学とは日常生活の中で起こる、人の心と行動の「不思議」と「仕組み」について考えていく学問なのですが、
社会的場面(生活の中)での個人の行動心理を扱い、普段の生活の中で、自分自身や他人(家族、友人、知り合い)含め、様々な人がなぜそう感じ、なぜそういう行動を取るのかを理解し、予測をするのが社会心理学と言われています。

なぜ、この「社会心理学」から上司、リーダーの振る舞い方を考えるべきか?というと、
人の心の動きや行動の法則を解き明かし、予測や予想を立てる学問だからこそ、
部下がどういった行動を取るのか、予測や予想を立てやすくなり、部下のマネジメントに非常に役に立つからです。

それでは、社会心理学から見る上司・リーダーとしての振る舞い方について考察していきたいと思います。


他者の行動は本人に原因がある?内的帰属、外的帰属、基本的な帰属のエラー

人は、誰か他人の行動を見かけたときに、なぜそういった行動を取ろうと思ったのかの背景や理由、行動の原因を探ろうとします。みなさんも、テレビやネットで、犯罪などの事件のニュースを見かけると、犯人の行動原因を推測しようとしませんか?

この推測の過程を「帰属過程」といい、原因を推測することを「原因帰属」といいます。
原因帰属には「内定帰属」と「外的帰属」があるとされています。

【帰属過程】


人がなぜその行動を取るに至ったのかをそもそも考える行為(プロセス)

【原因帰属】


人が取った行動に対して、なぜそういった行動を取ったのかの原因を考えること

【内的帰属】


本人の性格など、内的なものが原因で行動したと考えること

【外的帰属】


他者や環境が原因で行動したと考えること

社会心理学_原因帰属


この原因帰属には、ある傾向があるとされています。

その傾向とは、人は、他者の行動を推論する際、外的な原因よりも、内的なものが原因と考える傾向が強い。ということです。

例えば、犯罪を犯した人の原因は、外的な理由よりも、内的な、本人の中に原因があると考えやすいのです。これを「基本的な帰属のエラー」といい、個人の行動の原因や理由を説明するにあたって、本人の気質的または個性的な面を重視しすぎて、状況的な面(外的理由)を軽視しすぎる傾向のことです。

これに当てはまると、上司は、部下が失敗した場合の行動原因を考える際、外的帰属で原因を考えるよりも、その部下の内面的なものに原因を求めてしまう傾向が強くなってしまうのかもしれません。

もしかしたら、その結果、部下的には防ぎようのない外的要因にも関わらず、思い込みだけで判断してしまい、その部下のことを悪く思ってしまい、誤った指導をしてしまう可能性も出てきますのです。

例:
部下Aさんに提案書の作成をお願いしていた。けれど、その作成業務が遅れていた。できていないのは本人の仕事のスピードが遅いからと思い込んで指導した。しかし実は、自分の上司である部長から急遽、別の業務を依頼されていたから遅れてしまっていたからだった。

部下や後輩の行動の推察をするときに、そういった内的原因だけではなく、外的原因も客観的に探った上で、指導をすることが上司・リーダーには必要かもしれません。


観察学習(モデリング)

子育てをしていても感じることですが、子どもたちは、大人の行動、言動を観て、成長していきます。 大人が手洗いや歯磨きを疎かにしていたら、それだけで、「パパだって、手洗いしてないじゃん」と言われることもあります。 子育ての話題から少しそれますが、子どもたち(未成年者)による犯罪が発生すると、暴力的表現のあるゲームや漫画が、犯罪の発生を助長していると、話題に上がることが多くなります。

なぜ、そういった暴力的表現のあるゲームや漫画のせいだ、という話題があるのでしょうか?

それを紐解くキーワードが「学習」と言う言葉です。 人は何かを学ぶ際、直接的な経験を通して学習するケースと、他の人の行動を見て学習するケースがあります。 ゲームや漫画の影響受けると言うのは後者であり、このような学習ケースを、「観察学習(モデリング)」と呼びます。

バンデューラらのモデリング実験

観察学習における実験として、バンデューラらのモデリング実験というものが存在します。
3歳から5歳までの子ども(男女)をAからBの3つのグループに分け、各グループごとに、他者(大人)の行動が 子どもたちにどういった影響を与えるかを調べた実験結果です。

Aグループの子どもたちは、BグループやCグループに比べて、ボボ人形に対して攻撃的な言動が遥かに多いことが見受けられました。 この実験の結果により、人は他者の言動を見るだけでも学習するというモデリング理論が広がりました。

社会心理学_モデリング実験

攻撃的なモデルを見たことで、「観察学習(モデリング)」し、攻撃行動を模倣する子どもが多かったそうです。

バンデューラのモデリング理論:4つの過程

バンデューラが提唱した他者の行動と結果を観察し、模範することで自ら学習するモデリングの学習では、4つの過程があります。

①注意過程:


この段階では、モデルとなる対象とそのモデルが持っている特徴を選択し、観察している過程です。

モデルとなる対象は多く存在します。例えば子どもの場合は親や兄弟・教師などの身近な存在から、テレビや本などで知った著名人・有名人も含まれます。

②保持過程:


この段階では、観察したモデルを記憶に残している過程です。頭の中でその人やその人の特徴を記憶として保持しています。


モデルがとっている言動を抽象化したり、頭の中でその対象の言動を繰り返し模倣することで、記憶に残しています。

③運動再生過程:


この段階では、記憶に残したモデルの言動を自ら再生する過程です。

頭の中で記憶することと、実際に再現できることは全く異なる場合もあります。ただ、再生することで、自分が実現できている行動と頭の中で記憶したモデルの行動との差が見え、その差を埋めるための調整を行うことも可能となります。

④動機付け過程:


この段階では、モデルを模倣することで学習した行動を続けることの動機付けを行う過程です。

その行動を実践することによって得られた満足感や楽しさや周りから褒められたなど様々な動機付けが存在します。

モデリング実験では、子どもの実験ではありますが、
右も左もわからない新入社員の場合は、このようなモデリングが当てはまるんじゃないでしょうか?

仕事の進め方がわからない、学んでない新入社員は、先輩や上司のやり方を見て学んでいきます。

子どもは親を見て育つといいますが、部下も上司を見て育っていきます。
改めて、良いモデル(見本)になれるように日々の行動を意識したいものです。

すぐ怒る人は、敵意帰属バイアスが強い人

誰かに何かを言われると、カチンときたり、イラッとしたりすることが人間誰しもあると思います。

敵意帰属バイアスとは相手にされた行為を、敵や悪意から生じたものと捉える傾向のことです。

例えば、みんなが見ている前で上司から叱責されたと言う出来事に対して、

敵意帰属バイアスが弱い人は、「自分のためを思って叱ってくれたんだ」と思い、逆に敵意帰属バイアスが強い人は、「自分に恥をかかせるために、わざとみんなの前で起こったに違いない!」と思うのです。

社会心理学_敵意帰属バイアス

他にも通勤時に駅を歩いていたら、前から来た人とぶつかったを例とすると、

敵意帰属バイアス弱


→人が多いから仕方がない→攻撃行動に出る可能性は低い

敵意帰属バイアス強


→わざとぶつかってきたに違いない!→攻撃行動に出る可能性が高い

敵意帰属バイアスは、人間、誰にでも存在していますが、強度の強さ、弱さが存在するとされています。

部下指導をする際も、部下のそういったバイアスが強い方なのか?弱い方なのか?を見極めながら、指導をした方が良さそうです。

他人との関係や影響によって、集団規範が作られる

集団の中で、共有されている価値判断や行動判断の基準のことを集団規範と呼びます。 集団において、そのグループ独自のルールや慣習、価値観が存在しますが、こういった集団規範は、他者の行為に相互に影響を受け合うようにしながら、次第に統一されていき、作られるとされています。

集団規範は、所属メンバーの価値観に左右されたす。例えば、社会人は身だしなみが大切と考える人の多い集団は、服装や髪型に対して、強い集団規範ができやすく、同じ集団のメンバーに対してもその規範に従わせようとする力が働くそうです。

こんな実験結果があります。

アメリカの社会心理学者ムザファー・シェリフという学者が、集団の中で規範が作られていく過程について、実験によって検証を行いました。 まず、2~3人の被験者を暗室に入れ、暗闇の中で天井の光を見せます。次に被験者に暗闇の光が何インチ動いたかを順番に回答してもらいます。

すると、個人で回答した時は、バラバラな数値だったのが、2~3人で一緒に実験を聞く際、回数を重ねるごとに全員の回答が次第に近づいていく結果となりました。

実は光が全く動いておらず、動いたように見えるのはただの錯覚なのですが、複数で行う場合は、他人の答えた数値を参考にするため、だんだんと数値が近づいていきます。つまり、本来はバラバラであるはずの個人の考えが、集団の中に入ると、他社の後に相互に影響を受けが多くになるため、次第に統一されていくと言うわけです。

ここ最近では、バリュー経営や行動規範を作った組織マネジメントの重要性が語られることが多くなってきました。そう考えると、新卒採用、中途採用に限らず、組織のバリューや行動規範を改めて、整理した上で、働く従業員の価値観とマッチする人を採用した方が合理的だと強く感じます。

新しく入ったメンバーに集団規範に沿うように求める、つまり規範に従わせる動きが、必ず出てくる訳ですので、集団規範の価値観やルールに賛成してくれる、同調してくれる人を探した方が組織マネジメントでは、近道になるのかもしれません。

他人からの評価で意見や行動が変わってしまうのか?

オペラント条件づけの実験をご存知ですか?
人は、他人の行動や言動に対して、良いか悪い、肯定か否定、なんとも思わない、など常に評価をしてしまっているし、他人からも同様に自分自身の行動や言動を評価されています。

自分の意見に対して、他人からそうだね。と肯定された場合は、意見に確信が持てて、それ以降も意見を持ち続ける傾向にあります。逆に他人から「そうは思わない」と否定された場合は、自分の意見に自信が持てなくなり、それ以降は、別の意見に変わりやすい傾向にあるのです。

社会心理学_オペラント条件づけ

このように、他人からの評価というもので、考えや行動が変わってしまうことが多にしてあります。

なぜ変わってしまうのか?というと、オペラント条件づけという心理プロセスが働くからだそうです。 オペラント条件づけとは、報酬や嫌悪刺激(罰)に適応して、自発的にある行動を行うように、学習することである。行動主義心理学の基本的な理論です。

このオペラント条件づけは、肯定、否定だけでなく、周りから褒められたり(報酬)、叱られたり(罰)しても発生するとされています。

上司から褒められたら、嬉しくなり、もっとやりたい!もっと頑張ろうと、そのことに対して、積極的になります。 上司から叱られたら、萎縮してしまったり、やる気が下がってしまう可能性もあります。もちろん、叱られて、失敗を改善しようと奮起する場合もあります。人によって、その反応は変わります。

その人のやる気を引き出したいときや態度を改めさせたいというときなどの部下指導する際にこのオペラント条件づけで起こりうる部下の態度の変化(反応)を考慮した上で、飴(褒める)と鞭(叱る)を使い分けた方が良いでしょう。


今回は、社会心理学から見る上司・リーダーとしての振る舞い方について考察していきました。 心理学は、臨床心理学、認知心理学、発達心理学、知覚心理学・・・とさまざまな種類のものが存在しています。

今後も、他の心理学から見る上司・リーダーとしての振る舞い方について、ご紹介していきたいと思っていますので、参考にしていただければ幸いです。


【執筆者情報】

ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃

研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間50登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。

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