●座学が中心になりがちで、受講者が受動的になってしまう
→ 知識は得られても、実際に日常業務や生活のなかで活かすきっかけが作りづらい
●自己理解や相互理解が浅く、対話が不足しがち
→ 本音を出さないまま研修が終わり、「どこか他人事」という受講者もいる
●研修後のフォローアップが不足しており、内容が定着しにくい
→ 問題が起きた際に活用されないまま、形骸化してしまう これらの問題意識のなかで注目されているのが、「ゲーム」を活用したストレスマネジメント研修のアプローチです。遊びの要素を取り入れることで、参加者が能動的に参加しやすくなり、座学では得られにくい体験型の学びを実現するという期待が高まっています。 本コラムでは、ゲーム研修がどのようなメリットをもたらすのか、また実際にどのようなゲームを使うと効果的なのかといった点を中心に、ストレスマネジメントの観点から具体的にご紹介します。新たな研修手法の導入を検討している担当者の方はもちろん、今後の自社の研修スタイルを見直そうとしている人事・管理職の方にとっても、活用のヒントになるはずです。

ストレスマネジメント研修におけるゲーム活用のメリット
1. ゲームの特徴と相性の良さ
ストレスマネジメント研修では、単にストレス理論や対処法を学ぶだけでなく、「実際にどのように感じ、どのように行動してしまうのか」を体感的に理解することが重要となります。ゲームには次のような特徴があり、これらはストレスに関する「気づき」や「行動変容」を促す研修内容と相性が良いと言われています。
インタラクティブ性の高さ
•受講者同士が対話・協力・対立など、さまざまなやりとりをしながら課題を解決していく•そのため、自分や他者の言動がゲーム進行にダイレクトに影響を与える
楽しさと没入感
•「学ばなければならない」という硬い姿勢ではなく、楽しみながら自然とゲームに引き込まれる•感情が動きやすいぶん、結果として得られる学習効果が高まる傾向がある
試行錯誤がしやすい“安全な”空間
•現実の職場ではリスクがある行動でも、ゲーム内では気軽に試せる•失敗や衝突があっても、あくまで「ゲーム」という枠組みのなかで捉えられるため、心理的安全性を保ちやすい 以上のように、ゲームは単なるレクリエーションではなく、人間の行動特性やコミュニケーションを可視化してくれる「ツール」として活用できます。「自分はどんな時に焦るのか?」「仲間にどんなサポートをしてもらうと助かるのか?」といったストレスマネジメントにおける重要ポイントを、座学に比べてスムーズに体感・共有しやすいのです。
2. 思考・行動パターンの客観化
ストレスマネジメントで鍵になるのは、「自分がどのようなパターンでストレスを感じやすいのか」に気づくことです。たとえば、
•追い込まれると強気に出てしまう人
•衝突を避けようとして、自分の意見を言わずに我慢しがちな人
•チームプレイよりも単独行動を優先しがちな人
といったように、ストレス下での行動には人それぞれのクセがあります。ゲームを行うと、そうしたクセが短時間で顕著に表れることが少なくありません。ゲーム終了後の振り返りでは、「自分が思っていた以上に攻撃的だった」「すぐに引いてしまいがちだった」など、予想していなかった自分の一面に気づくケースも多々あります。
この“客観的な気づき”こそがストレスマネジメント研修の要です。自分がどんな時にどんな行動をしがちなのかを把握できれば、日常業務のなかで「また同じパターンにはまらないようにするにはどうするか」を考えやすくなります。座学や講義で理論を学ぶだけでは得られにくい、「リアルな行動のデータ」をゲームから取り出せるという点が、大きな価値と言えるでしょう。
•衝突を避けようとして、自分の意見を言わずに我慢しがちな人
•チームプレイよりも単独行動を優先しがちな人
受容・協力・コミュニケーションの促進
ストレスマネジメント研修では、個人のセルフケアだけでなく、「組織やチーム内でどのように支え合うか」という視点も重要視されます。特に、コロナ禍以降のリモートワークやハイブリッド勤務の増加によって、コミュニケーションの不足を痛感している現場は少なくありません。 ゲーム研修では必然的に会話や相談が生まれたり、チームワークを発揮しなければ解決できない課題が設定されたりします。 たとえば、「パズルを時間内に協力して解く」、「資源を分担し合ってゴールを目指す」 といった状況で、参加者は互いの役割を補完し合いつつ、自分の強み・弱みを自覚することになります。「〇〇さんの交渉スキルが生きた」「△△さんがまとめ役になってくれたからうまくいった」などといった声が自然に飛び交うことで、研修の場で心理的な距離が縮まったり、普段は意外と意見を言わない人のリーダーシップが見えたりすることも珍しくありません。 こうした場を共有することは、お互いのストレス要因や悩みを知るきっかけにもなります。ある人にとっては何でもないタスクが、別の人にとっては大きな不安要素である場合もあるのです。ゲームでの体験を通じて「相手がどう感じるか」「どんなサポートが必要か」を知ることは、研修後の実際の職場でのコミュニケーション向上につながります。

具体的なゲーム研修のプログラム例
ここからは、実際にストレスマネジメントの観点で有用と考えられるゲームのプログラム例をいくつかご紹介します。どのようなゲームを選ぶかは、研修目的や参加者の特性、予算や時間といった要件に応じてカスタマイズ可能です。ここでは典型的な例を挙げつつ、運用のポイントにも言及します。
自己理解を深めるゲーム
(1) パーソナリティ診断系のカードゲーム
•概要自分の強み・弱み・行動特性を示すキーワードが書かれたカードをランダムに引き、そのカードの内容を自分自身に当てはめて「どの程度当てはまるのか」や「具体的なエピソードがあるか」をグループでシェアしていきます。 •効果
・普段意識していない「自分の一面」を客観的に把握できる
・他者の考えや感じ方を聞くことで、価値観やストレスの原因が人によって異なることがわかりやすくなる •運用ポイント
・使うカードの枚数やテーマを事前に絞ると、より集中して議論できる
・全員が話せるように、ファシリテーターがタイムマネジメントをしっかり行う
・可能であれば、理論的な裏付け(ビッグファイブやMBTI等)に基づくツールを使うと信頼性が高まる パーソナリティ診断系のカードゲームには、価値観を明らかにする「Wevox values card(バリューズカード)」や、性格を分析する「Refind Self」などがあります。 【Wevox values card(バリューズカード)】
-ゲーム形式で個人の価値観を引き出すカードゲームで、チームビルディングに用いられます。
オフライン版とオンライン版があり、オンライン版は無料でプレイできます。 バリューズカードは、楽しく遊んで会話がうまれるカードゲームです。「自由」「冷静」「卓越性」などさまざまな価値観キーワードが書かれたカードが出てきて、メンバーの価値観に触れて、自分の価値観を知れます。ゲーム感覚で楽しくコミュニケーションが取れるから、リラックスしてメンバー同士の理解を深めることができます。 【Refind Self】
– このゲームは任天堂switchで遊べる内容です。
– 気の向くままに移動し、会話し、調べたり、ミニゲームをしたりするゲーム
– ゲームオーバーはなく、正しい進め方や間違った進め方もない
– 何か行動する度に、性格の分析が行われていく
– 100%、分析が完了すればゲームクリアとなり、性格が発表される
Refind Self:https://playism.com/game/refindself/
(2) ロールプレイ型のシミュレーションゲーム
•概要職場で想定されるストレスフルな場面を、短い寸劇や設定で再現し、参加者が“自分ならどう動くか”を実際に演じます。たとえば、「上司から無理なスケジュールを突然押し付けられたとき」「顧客からクレームが殺到してテンパっているチームをどう助けるか」といったケーススタディを作成するとリアリティがあります。 •効果
・自分の言動や感情の変化をリアルタイムで体感しやすい
・フィードバックを受けることで、他者から見た自分の印象や行動特性を知る機会になる •運用ポイント
・役割分担(上司・部下・顧客役など)を明確にしておき、複数回ロールプレイを回すとより深い学びにつながる
・演じ終わった後、必ず振り返りの時間を十分に確保し、「なぜその対応をしたのか」「実際の職場ならどう修正できるか」をグループで話し合う
他者理解を深めるゲーム
(1) チームビルディングゲーム
•概要
複数人で協力しながら課題を解決するタイプのゲーム。例えば、限られた資源を分担し合ってゴールを目指す、パズルを制限時間内にクリアするなど、メンバーのコミュニケーションや役割分担が成功の鍵になるシナリオを用意します。 •効果
・自分だけでなく、他者がどのように動くか、どうサポートを求めるかに注目する機会となる
・成功や失敗の原因をたどることで、チームの強みや弱点を短時間で見極めやすい •運用ポイント
・可能であれば、普段仕事であまり接点のないメンバー同士を混ぜたグループ分けにすると、新しい関係性や気づきが生まれやすい
・ゲーム中だけでなく、終了後のフィードバックで、「誰がどんなときにストレスを感じていたか」「どんなサポートが助けになったか」を具体的に共有する
(2) ジャッジメント/ディベートゲーム
•概要
あるテーマや仮想事例を提示し、グループ内で最終的な結論を出したり、多数決を取ったりする「ディベート型」のゲーム。テーマによっては「正解」がないものを設定し、意見の対立が起きやすい状況をあえて作ることで、他者との認識の違いを明確に浮き彫りにします。 •効果
・価値観や考え方の多様性を体験的に理解し、「なぜその意見に至るのか」を深く探れる
・ストレス下でお互いをどう説得し合うか、どのタイミングで譲歩するかなど、実務でも起こり得る交渉・折衷のプロセスを疑似体験できる •運用ポイント
・デリケートなテーマの場合は、個人攻撃にならないようにファシリテーターが進行を丁寧に行う
・日常的に起こり得る社内事例(部門間の意見対立など)を題材にすると、職場への応用がしやすい。

研修効果を最大化するためのポイント
「効果を最大化するためのポイント」として、ゲーム研修を成功に導くために必要な運営上の工夫やファシリテーションのコツ、参加者の心理的安全性を高める方法などを詳しく解説します。ゲームによる「楽しさ」や「没入感」を、いかに深い学びや組織風土の改善へと結びつけられるかが、大きな鍵となるでしょう。
1.明確な目的設定とゴールの共有
ゲームを活用した研修は、楽しさや意外性から学びを引き出しやすい一方で、「ただ遊んで終わり」になるリスクもあります。そのため、事前に“なぜこのゲームをするのか”“研修を通じて最終的に何を得たいのか”を明確化し、参加者全員に共有しておくことが重要です。
•目的設定の具体例
・「自己理解と他者理解を深め、職場での対人ストレスを軽減する」・「チームビルディングを通じて、相互サポートの意識を強化する」
・「実際の業務で発生しうるストレス状況を擬似体験し、対処方法のレパートリーを増やす」 このように、目的をあらかじめ言語化し共有しておくことで、参加者がゲーム中にどんな点に注目すれば良いかが明確になり、振り返りの質が高まります。
2. ファシリテーションとデブリーフィングの徹底
ゲーム研修の成否を分ける最大のポイントは、ファシリテーターの進行力です。特にストレスマネジメントがテーマの場合、参加者は自分の行動パターンや弱みをさらけ出す場面もあるため、心理的に不安定になりやすい場面が生まれる可能性があります。
•ゲーム中のファシリテーション
・ルールや目的を分かりやすく説明する・チーム編成や役割割り振りを適切に行い、強い人間関係のバイアスがかからないように工夫する
・ゲームの進行状況を随時観察し、コミュニケーションが滞っているチームには声を掛ける、過度にヒートアップしている場面では一時的にストップをかけるなど、臨機応変に対応する
•ゲーム後のデブリーフィング(振り返り)
・ゲームを終えた直後の熱が冷めないうちに、感じたこと・気づいたことを言語化する時間をとる・「どんな行動が効果的だったか」「どんな瞬間にストレスを感じたか」などの切り口で対話を促す
・「ここでの学びを実際の職場や生活でどう活かすか?」という次のアクションにつなげる質問を投げかけ、具体的に考えてもらう ファシリテーターが適切なタイミングで質問を提示し、参加者の意見を引き出すことで、ゲームの体験がより深い学びとなり、実務・日常へと結びつきやすくなります。
3. 安心・安全(心理的安全性)の場づくり
ストレスマネジメント研修をさらに効果的にするためには、心理的安全性を高める取り組みを積極的に行いましょう。ゲーム内では意見の食い違いや個人の弱みが表面化することがある一方、それをきっかけに相互理解が深まる絶好の機会にもなります。お互いが「ここでは安心して発言できる」「失敗を責められない」という認識を共有することで、学びの質がぐんと上がっていきます。 【ポジティブ・フィードバックの推奨】
振り返りの場では、まず「良かった点」や「新たに学んだこと」を率直に伝え合うようにしましょう。
また改善点を伝える場合でも、行動やプロセスに焦点を当て、「どうすればさらに伸ばせるか」を建設的に話し合うのが理想的です。 【研修規模や参加者構成への配慮】
大人数で一斉に実施すると、発言しづらい方が出てくるかもしれません。小グループに分けるなどして、一人ひとりが意見を言いやすい環境を整えましょう。
役職や年齢差が大きい場合は、あえて階層別で行ったり、事前に簡単なアイスブレイクを入れるなど工夫を加えると、垣根が下がりやすくなります。 【守秘義務やプライバシーの担保】
研修で話された個人的なストレス要因や相談内容は、外部に持ち出さないルールを明確化しておくと、安心して取り組めます。
社内の上下関係が気になる場合は、信頼できる外部講師を招いたり、研修の趣旨を経営陣がしっかり支持していることを周知するなど、心理的なハードルを下げる工夫も効果的です。 こうした配慮を行いながらゲーム研修を進めることで、意見の衝突も単なる対立ではなく、「お互いを理解し、共に成長するためのステップ」へと前向きに変えていくことができます。

ストレスマネジメント研修にゲーム要素を取り入れる意義・効果
1. 自己効力感とチームの相乗効果
ゲーム研修の大きな成果のひとつが、参加者の**自己効力感(Self-Efficacy)**を高めることです。ゲームでは小さな成功体験や試行錯誤を積み重ねられるため、「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちが生まれやすくなります。これがストレスマネジメントにおいて重要な“自分で状況をコントロールできる感覚”を育むことにつながるのです。 また、ゲーム中や研修後の振り返りを通じて、お互いをサポートし合うチームとしての意識が育まれれば、組織全体のコミュニケーション活性化に寄与します。ゲーム研修をきっかけに、普段は意見を言いにくかったメンバーが発言し始めたり、上司・部下が互いに学び合う姿勢を示したりと、ポジティブな変化が現れることも多いでしょう。2. 組織風土の改善と離職率の低減
ストレスマネジメント研修は、従業員個人の健康を支援するだけでなく、組織風土の改善に大きく貢献します。ゲームを通じたポジティブな対話や相互理解の積み重ねが、職場の雰囲気を和らげ、心理的安全性の高い文化を形成する一助となるのです。 心理的安全性の高い組織は、従業員がストレスを早期に共有できる体制が整いやすく、深刻なメンタル不調を未然に防ぐ効果も期待できます。その結果、離職率の低減や採用面でのブランド強化など、組織運営における中長期的なメリットにつながる可能性が高まります。3. 今後のメンタルヘルス施策の方向性
働き方が多様化する現代では、従来の一方向的な講義スタイルの研修ではカバーしきれない課題が増えています。リモートワークや時差出勤などで物理的に顔を合わせる機会が減るなか、**“体験を共有する”**ことの重要性は今後ますます高まるでしょう。まとめ
ストレスマネジメント研修でゲームを活用することは、「学びのハードルを下げる」だけでなく、「楽しみと気づきを同時に得る」という大きな可能性を秘めています。短時間で参加者同士の対話を引き出し、相互理解を深めるにはゲームがもつ“遊びの力”は非常に有効です。 しかし、その効果を最大限に活かすには、明確な目的設定やファシリテーターによる進行、研修後のフォローアップなど、運営面での工夫が欠かせません。特に、心理的安全性を確保することで、失敗や衝突を恐れずに本音を出し合える土壌を作り、そこからこそ深い学びが生まれます。 ゲーム研修を通じて生じる小さな気づきや行動変容は、個人のストレス対処能力だけでなく、組織全体のコミュニケーションや人間関係、ひいては企業風土の改善にも波及し得ます。働き方や価値観が多様化し続ける時代において、「受動的な研修」から「体験を通して能動的に学ぶ場」へとシフトすることは大きな流れと言えるでしょう。 もし従来のストレスマネジメント研修に物足りなさを感じていたり、新たな試みを検討している企業があるならば、ゲームを取り入れた研修プログラムの導入をぜひ検討してみてください。「楽しく学ぶ」ことが、実はストレスマネジメントにおける最も強力な武器になるかもしれません。
【執筆者情報】
ビジネスゲーム研究所 米澤徳晃
研修会社に入社後、研修営業、研修講師業に従事。その後、社会保険労務士法人で人事評価制度の構築やキャリアコンサルティング活動に従事。その後、独立。講師登壇は年間100登壇を超え、講師としてのモットーは、「仕事に情熱を持って、楽しめる人たちを増やし続けたい」という想いで、企業研修を行っている。